メッセージ・イン・ア・カプセル

 お昼に食べるラーメンだけを楽しみに、エロショップへ出勤したある日。
 店の前に見慣れないライトバンが止まっていて、店長が荷卸ししていた。
「おう、これ運んでくれ!」
 挨拶も抜きにご挨拶だ。タイムカードもまだ切っていないというのに。
 ――なんですかコレ?
 ライトバンの後部座席には大量のダンボールが積まれていた。どうせまたよからぬものでも仕入れて来たのだろう。

   *

「一箱四千円」
 店長は積み上げたダンボールの頭を自慢気に叩いた。
 どういうルートか知らないが、夜逃げ同然でたたんだエロショップの流れ品らしい。
 どうせ会社にも事後報告で、値切りに値切って買い取って来たのだろう。
「さあー、なにが入ってるかなー?」
 嬉しそうにダンボールを開けてくれるのはいいが、やたら作業量が増えるこっちの身にもなって欲しい。
 一山いくらのガラクタか、はたまた掘り出し物のお宝かーーとんでもな福袋に手をつけたものだ。
「があー、ハズレかコレ! なあ?」
 店長は次々とダンボールを開いて、「コンドームは危ない」だの「ローションは節操なく仕入れるからダメなんだ」だの、ブツブツ言っていた。
 一応、売り物になる分はあった――。
 中には発売日が新しいものもあって、ギリギリまで店をやっていたことがうかがえる。
「まあ、元はヤーのとこだよ。のれん分けで店やってたのは普通だけどな」
 友達まではいかないにせよ、店長は潰れた店の経営者と面識があったらしかった。
「脱法ハーブで一山当てて、海賊盤の裏でしのいでたけど限界だったんだろ」
 なんかこういうの見るとせつないな、流れ品を前に店長はポソリつぶやいた。
 まあ、確かに切ない。明日は我が身。またハローワーク通いかと脳でため息をつく。

   *

「どう、しよっかなあー、コレ」
 作業が一段落ついたころ、店長はダンボールの一つに目をくれた。店長にハネられた売り物にならない子たちだ。
 本当に福袋にして混ぜ売りするか、ワゴンセールで激安販売すれば捌けるんじゃないか、僕は提案したが渋く流された。
「いいや、面倒臭ぇ」
 店長が、まとめて棄てようとして――。
「いる?」
 もの欲しそうに見えたのか、僕に声がかかった。
 いるものと、そうでないものを選っている暇はなさそうだ。貧乏性な僕は、おもしろそうだから引き取ることにした。
「二千円で売ってやるよ」
 輩がニヤリ笑った。
 ……これだから大阪人は嫌いだ。商魂たくましいというか、なんというか――。
 現金取っ払いで、ポイントもつかねーのかよ。ホルモンにあたってシネ。しぶちん。

   *

 本当に二千円払って引き取って来たガラクタたちは、お持ち帰りの電車で少し恥ずかしい思いをさせられた。
 知り合いの嫁さん連中へバレンタインのお返しを配る用意が出来たので、まあいい。
 ある日、寝起きに蹴つまずいて中を見る気になるまで部屋の片隅に置いていた。
 とりあえず開けて――。
 ……臭ぇ。
 すげえ臭ぇ。
 渇いた。埃っぽくて情けない、息のあって生きていない臭いがした。
 そもそも小汚い店で長いこと吊るされて、どこかの倉庫に眠っていた品だろう――カビていて不思議はない。
 とりあえず、ダンボールを閉めた。
 このまま捨てようかとも思ったが、もったいない。マータイさんに怒られる。
 考え直して息を殺し、再びパンドラの箱を開けた――。
 臭いはなくなっている気がした。
 なくなっていなくて、かなり薄れている。
 空気の缶詰じゃあるまいし、一瞬の放香だったのか。アイドルグループがライブ会場の空気を詰めて売る時代だが、誰も潰れたエロショップの悲哀なんぞ嗅ぎたくない。
 そういえば、おもちゃの缶詰って当たらなかったなあと物思いにふけて、大人の缶詰を漁る。
 ローター、バイブ、ディルド、サック、コンドーム、サプリ……。
 どれもこれもがチープで、”どんもならん”と心でボヤいた。
 テロンテロンのランジェリーが物悲しい――。
 広げてみて某激安の殿堂で売っているもののが、よっぽど使い物になると思った。
 ――カプセル。ガチャガチャで出て来そうなアレが三つ。ダンボールに残っているのは、コレだけだった。
 どうせ使用済み下着の類だろうと手に取る。中身が詰まっている気がしなかった。
 紙。便箋――手紙だった。
 日焼けして茶けたそれは丸字でなにか書いてある。
 ……授業中に女子高生がやり取りするような、そんな内容に思えた。
 かなり古い。感覚的にコギャル全盛の時代に思えた。
 なんだろう……世の中なにで興奮する人がいるかは分からない。
 人のメールを覗き見するような、そんな背徳感を握りしめるかなりのマニア向けだろうか。
「いい加減 私の下着 カエして下さい」
 二つ目のカプセルを開けて、少しゾッとした。
 作り物だろう……使用済み下着だって「使用済み」に違いないだろうが、「○○在住 ○○歳 大学生」なんて嘘に決まってる。
 買う方も半分は分かっていて、ある意味プロレスを楽しんでいるようなもんだ。
 サイコメトラーでなくてよかった。
 ――三つ目は自転車のカギだった。
 ふっ、と都市伝説と事件が頭を過ぎる。
 大量の人間がある女性の家の鍵を購入していたというオチと、強姦事件の犯人が相手方は面識のない女性の家の鍵をなぜか大量に所持していたという現実……。
 削れて薄気味悪く笑うカエルのキーホルダーがぶら下がった自転車のカギは、一体どこの誰のものだろう。
 ブルマを盗られて泣いていたあの子の思い出せない顔が、眼の奥に居座った。

<追記>
「盗んだやつはせめて大切にしろ!」と、HRで見当違いな説教かました担任……。
逆に嫌だろ。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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