空のカケラを伝染し取る

 カシャ、カシャと音が聞こえる。
 スマホで写真を撮っている音だ。
 音の”源”をフワフワと探っていて、お召し物はミリタリー柄で揃えた高校生ぐらいの男女数人が目に入った。自撮りしているようだ。顔には傷――特殊メイクを施していた。

 駅のホームに電車が止まる。待っていたから乗る。
(あぁ、ハロウィンか)
 座席の端でもたれるように電車に揺られながら思った。休日の午前9時過ぎ、人は多い。
 朝っぱらから土下座して来た帰りだった。

   *

 まだ開いてもいない、質屋の前で。
 スーツ姿でアスファルトに頭をつけていた。
 なにも金の無心に行っていたわけではない。別段、悪いこともしていない。
 二束三文――質屋も値段をつけられないほど安い土下座だ。誠意のカケラもない。
 僕はこれを「空(カラ)土下座」と呼んでいる。
「男は、そんな簡単に頭を下げるものじゃない!」
 よく言われるが、意味が分からない。男やってるつもりもない。でも男だから仕方がない。
(――なんでこうなったかな……)
 今回の件ではなくて、今までの全部に思い巡らせていた。積み重なって出来た今に。
 今から遊びに行くのだろう、車内はどんどんと賑わって来ていた。
 少しだけ場を認識して、その場から自分だけを切り離して座席の隅でもたれたままだった。
 前を集団が通る。僕の態勢は変わらないままでい――ッ!
 覗き込むようにした女の子が、僕の左目の下を指一本でなぞった。
 ホームで見たハロウィン軍団の一人。もちろん知らない子だった。
 不思議そうに指を宙空に掲げたままで、目を丸くして空の表情で僕を見ていた。
 僕の目の前を通りがかったとき、隣接する車両に移動しようとしたときにーー意味不明な行動をしたようだった。
 ハロウィン軍団の他はと言えば、皆一様に固まって僕の目の下を撫でた子を見ていた。
 フッ、と我に返ったように。その子は、右向け右に僕から離れた。
 なんの説明も、釈明も謝罪もなしに彼女は他を引き連れて、隣の車両に移動する。
「なんでこうなったんだろ?」
 呟いて、彼女は自分の目の下の特殊メイクで作った傷をなぞった気のした。
 質札でもつけて、僕は預かってもらえたのだろうか?
 質流れになって――誰かの元に、渡り歩いて。”なんでこうなった?”は。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。