初耳です初見です

 幽霊は見えないが、オーラが見えるという女の子がいた。

 知り合いの当時の彼女で、チエちゃんという非常に献身的で明るい人だった。
 僕はてっきりスピリチュアルな人だとばかり思っていたが、そうではない。たまたま二人になる機会のあって、話題もないので突っ込んで聞いてみた。
 蓋を開けばチエちゃんはヨガのインストラクターをやっている人で、いつの間にやらそれらしきものが見えるようになったという。
 長年、気の流れに触れてると……ね、なんてそれらしい言葉でお茶を濁していると「不健康そうだよね」と言われた。
 もはやオーラもクソもない僕の見たままの感想だと思うが、それはそれ。
 チエちゃんの言うオーラとは、僕が想像したスーパーサイヤ人的なステレオタイプのものをと少し違う。
 頭、お腹、腕、脚……とにかく一つの部位に集中して見えるのだという。
 それは、人それぞれで意識的に見ようとして見れるものではないということ。
 いわく、まとっているというよりはモヤモヤと一部分で蠢き、いびつな丸をしている。
 ――それ、見えてなにか分かるの?
 チエちゃんは首を傾げて、
「感覚的に、なんとなく……。どういう人か」
 一般的なオーラ同様、「色」が重要な要素となってくるらしかった。
 どんな人であれ、黒・白・赤・青・緑の計5色のうちで表現されるそれは、決まって「基礎色」と「補助色」に別れて見える。
 基礎色に赤・青・緑の有彩色のうちどれか、そして補助色に黒・白の無彩色のどちらかーー
 例えば緑と白の組み合わせ、これはかなりスタンダードなものらしい。
 人によって白の光度が強くベースの緑がほとんど隠れていたり、白が煙状で網目のように緑が見え隠れしているものもある。
 この「色の組み合わせ」と「補助色の形」で最終的な判断をするらしい。
 補助色の形はどうであれ、色の組み合わせは3x2の計6色ということになる。
 本当はそんな単純なものではなく、もっと複雑なものらしいが、どうにも表現のしようがないとのこと。
 ――緑は一般的なの?
「うん。緑と青は……緑の方が多いかなぁ」
 ――赤は?
「赤は全くのべつ……違うんだよ」
 いわく、基礎色の緑と青はいわば山と海の違いのようなもので、大別すればどちらも自然ということになる。天然物だ。
 だが、赤だけは全くの別物で人工そのもの。いわば養殖。元は緑か青のどちらかであったハズだという。
 パワーの源が違うだけだが、緑の方がどちらかといえば生命の根源に近く動物的で縦の繋がりが強い。
 逆に青は人間的で生命力的には緑に劣るが、横のつながりが強い。
 同じ自然系でも緑はいわば個体、青は共同体という大まかな違いがあると教えてくれた。
 転じてほとんど緑しかない人はワガママで周囲への影響力が強く、ワガママであることに気付いていない人が多いという。
 青の方が社会性が強いが、現代社会では社会的損をしている人の方が多いとのこと。
 ――その補助的な黒と白は?
「隠してる感じ。白が多い人、あんまり見てると頭痛くなって来るんだよね」
 黒も白も覆い隠すのは心を見せまいとしている証拠で、それはその人との距離感が変わろうとほとんど変わらないという。
 黒と白の違いは、青と緑ほど詳しく分からないらしかった。
 僕に教えてくれたのはほんの一部だろうし、チエちゃん本人も整理しているところだという。
 ――で、赤は?
 必要以上に唇を閉じた顔は、あまり言いたくないとしている様がありありと見えた。
「よく分かんない。でも、正直あんまり関わりたくない色だよね」
 赤は好戦的な興奮色みたいなところがある。適当に喋ってるんじゃないだろうか、と少し疑い始めたころだ。
「一番ヤバいの赤と黒。それも完全に同じ量のやつ」
 どこかふてくされたような、どうしようもない感情は諦観の念に未だ変わらずといったところか。
 袖を丸めて引っ張り、指先までカーディガンに隠したチエちゃんの不満の行先は結局のところやっぱりで。
「アイツ、赤と黒なんだよ……」
 せっかく見えるのだからと目を凝らして見てみれば自分の彼氏、すなわち僕の知り合いのものは正に危険信号なそれであった。
 そこからチエちゃんの質問攻めが始まり、話題は彼女が本来聞きたかったことにシフトする。
 チエちゃんがオーラから感じた知り合いのこと、近しい存在の僕が感じること――。
 チエちゃんが知ろうはずもない、彼女に見せるハズもないダークな部分は見事にマッチしてチエちゃんはうな垂れた。
 おそらく、オーラの話を詳しく聞かせてくれたのもそれが目的だったのだろう。
 ――自分のは見えないの?
「うん……見えたらいいのにね」
 なにもバカ正直に知り合いの過去の悪行まで暴露する必要はなかった。
 どうひねって、うなってしたところで悪い話しか出ないようなやつだから、無理はあるが。
 夜も更けた公園の色と音と横にいる女との些細な距離が、染み入るように刺さって痛かった。
 もうこうなれば、流れのままこう聞くしかないだろう。
 ――僕のオーラはどういう感じで……?
 間を持って、値踏みするようにチラ、チラと目を上下させたチエちゃんは言う。
「黒と白……もう一番、意味分かんない」

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ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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