学校の怪談

 今時の学生さんの間で「学校の七不思議」はあるのだろうか。
 ゆとり0.5世代の僕らの時代にはあった。
 未だに「君の存在は、この会社の七不思議の一つだよ」なんてお褒めにあずかったりもする。
「先生もな。ちょっとだけ幽霊見える」
 きっかけは、ある数学教師の発言だった。
 一般的なものはどうとして、その学校独自の七不思議というのはたいがい4つか5つで終わる。逆に8つあったりもする。
 僕が通っていた中学校もそんないい加減なものだったし、正直あまり覚えがない。
 ただ、一つだけ揺るぎない。覚えているものがある。

 学校のとある階のある渡り廊下、ある教室の前。三角座りした女の子の幽霊がうずくまっている箇所があるというのだ。
「先生、この学校にも幽霊いるの?」
「いるよ。ずっと昔から」
「ホント! どこにいるの!?」
「教えない。お前ら騒ぐだろ」
 数学教師は誰にいくらせがまれても、件の七不思議の一つ、女の子の幽霊が「出る」場所を教えることはなかった。
 だから、この七不思議は「ある階の、ある渡り廊下……ある教室の前」とハッキリしない。
 ただ、この話をすると決まって学年に一人か二人、放課後に数学教師をたずねる生徒がいるという。
「先生、それってあそこのことだよね」
 皆、一致する。見える子には見えるらしいのだ。
 そして、こう続けるのだという。
「先生、それあまり言わない方がいいよ」
 数学教師は生徒の忠告もあって、せめて場所は決して明かさないようになった。見える生徒には場所を決して広めないようにと、逆に忠告するようになったというのだ。

 *

 だいぶときを経て、ふと思い出した僕は当時の同級生にこのことを話した。比較的まともなウエキという男だ。
「ああ、あの視聴覚室の前の廊下だろ?」
 ウエキはこともなげに言った。
 その七不思議に絡む数学教師が僕らの時代にいたのかどうかさえおぼろげだった僕は、疑うことなく驚いた。
「見えてたよ。あれ? 言ったことなかったっけ?」
 こうもあっさり、「見える人です」宣言をされても困る。
 いわく、ほかの七不思議は知らないが昔からその話は有名で、ウエキの兄弟の代にまで語り継がれているらしい。
「弟も見たって言ってたしな。アレ? お前見えてたんじゃなかったの?」
 見えてない。人を見た目とか雰囲気で判断するのはヨクナイ。
 ――怖くなかったの?
「ん~、というか……最初は幽霊じゃないと思ってたから」
 なにか当たり前に話すウエキに、僕は猜疑心を折られていた。僕の中で、この男は嘘をつくような人間でないという評価もあってのことだろうが。
 僕はウエキも件の数学教師の元へ忠告に行ったのか聞いた。
「ああ、俺あんまりあの教師信用してなかったからさ。多分、誰かから聞いただけじゃないかな」
 ウエキはその数学教師は実際には見えておらず、人の受け売りだったのではという。
 生徒がたずねて来る度、どの場所を言われても「そこだ」、「このことは広める」なとしていたんじゃないかと……。
「でもあれ、あんまりよくないんだよな……」
 気になることを言う。よろしくないとはどういうことか。
 そもそも、それはどんな姿形をしているのか?
「う~ん、言いようがないんだよ」
 ウエキはその霊は確かに女の子に見えるが、年代や服装がひどく曖昧で、それは古ぼけた記憶に起因するものではないという。
「普段はうつむいてんだよ。顔見えないの。たまに顔上げて、こっち見てるときあるんだけどさ」
 しまい込んだ季節が切り込んだ包丁に薄くスライスされてベロを出したみたいにウエキは記憶を言葉にする。
「そのときはご機嫌斜めだから、あんまり近づかない方がいいんだよ」
 ――それ感覚で分かるの? 近づいたらダメとか?
「まあ、なんて言うか。その子のことが噂になったりとか……騒がしいときは決まって機嫌悪かったな」
 ウエキは一度きちんと見ようと試みたところ、毛のようなものが逆立ち始め、睨みを効かされことがあるらしかった。
 恐ろしくなって、それからは触らぬ神になんとやらを決め込んでいたという。
 確かに視聴覚室前の廊下といえば、普段それほど利用するところではない。生徒の出入りも激しくはないだろう。
「ずっと、あそこにいるんだろな……今でも」
 そんなウエキの一言に、成仏出来ぬ地縛霊というやつか、むしろ死んだことにさえ気づいていないのか……と。
「あ、」
 ウエキが思い出したように僕を見た。
「アレさ。お前のこと見てたよ」
 だから、お前は見えてるんじゃないかって、分かってて無視してたんじゃないか、って。そう思ったんだよ。
 チクリと首筋が痛んだ。

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ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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