アブダクトちゃん

 未確認飛行物体は、全てU.F.Oになる。
 屁理屈コネ回す天邪鬼なら「UFOを信じますか? 」と問われて、信じますと前置きしたあげくそんなことを言うだろう。
「UFO見たことある?」
 急にそんなことを聞いてきたのはオガワだった。
 ある勤め先で知りあった彼女は、特別気さくな方ではなかったが、不思議と気兼ねなく話せる仲だった。
 ――ないよ。見たことあるの?
「小学生のとき見た。誰も信じてくんないけど」
 僕自身、UFOの存在は信じていたりする。それが宇宙人の乗り物であることとは、僕の中で直結しないが。
 どこで見たのかと聞けば「田んぼ」と答える。
 どんな形のものかと聞けば「丸いの」と答え、どんな感じのものかとなれば「光ってた」とこうくる。
 ……会話になんねぇ。
 あまりにも抽象的というか、幅が広い。オガワはレジカウンターに両手をつき、エビ反り気味に天井を見上げていた。交信中デスカ?
 ――それ、ホントにUFOなの?
「ホントにUFOだよ! だって見たもん!」
 振り向き様にオガワは言う。僕と対話するというより、自分の意見を言い放っただけの感覚だった。
 まあ、女子は興味のない男になど、ナチュラル塩対応になる生き物だ。
 それはさて置き、UFOだと言い切れる根拠がどこにあるのかサッパリ分からない。
 フラフラと横揺れに空を飛ぶそれは、光に吸い込まれるようにしてやがて消えたという。
「その日の夜に、もう一回見たんだよ」

   *

 その晩、自分の部屋で寝ていると強烈な光が窓越しに差し込んできたという。
 眠たさと眩しさにボンヤリと目を開けると、スッとガラス窓が開いて宙に浮かぶ”なにか”があった。
 目映い光に包まれたそれが光度を下げた瞬間、いかにもな円盤が目に飛び込み、音も立てずにガラス窓は閉まった。
 二回目の眩しい光を感じたとき、それは日の光で朝を知らせるスズメがチュンチュン鳴いていた。

「夢じゃないんだよ。だって窓のカギ閉まってたんだよ!?」
 寝る前に閉めたはずのカギは、朝目覚めたときに開いていたという。
「多分、そのとき宇宙人に連れ去られたんだよ」
 いわゆるアブダクトというやつだろうか、なにを持ってそんなことを言っているのか……
 ――人体改造でもされたの?
「チップみたいなの埋め込まれたかも」
 オガワは珍しく笑った。
 ――なにか受信でもしてるの?
「……あ! でも、たまに雑音みたいなの頭に響く」
 何の前触れもなくラジオ放送のようなものがガヤガヤと耳の内部に響き渡り、頭痛のすることがあるという。
 上下にはめられた歯列矯正器具が電波でも拾ってるんじゃないのかと思った。が、面倒なことになりそうなので黙っていた。
「あー、信じてないっしょ」
 ニタニタしながら、オガワへ一瞥をくれてやる。
「いいもんべつに……ホントだもん」
 声こそ出さないものの、僕は笑っていた。
「まあ、信じられないよね」とか、「べつに信じなくていいから」みたく、ドライな反応をするものだとばかり思っていたからだ。
「戦争終わりました的なやつ聞こえるときだってあるんだよ。なに言ってんのかサッパリだけど」
 なにかブー垂れるオガワの横で、僕は笑顔を止めた。
 玉音放送のことだろうか。だとすれば、またずいぶんオカルト的な話じゃないか。
 東條英機が、昭和天皇の反対を押し切ってまで開戦に踏み切った理由のオカルト的俗説としてこんなものがある。
 ”偽りの神の声を聞かせ、現御神(あきつみかみ)はお前だとアメリカによって知らず洗脳されたからだ”
 それも”歯の被せ物”を通して電波を受信させ聞かせた、などというのだ。
 それが仮に……万に一つもないだろうが、理由の一つだとすれば――。
 玉音放送を受信しているオガワはどう操作されるのか。
 まあ、なにもかもこじつけがましいが、オカルトなんてそんなもんだ。
 グレーゾーンに位置するからこそ、楽しいのだと僕は思う。

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ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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