見初められて

 実家に帰省したときだ。
 と、いうよりは用事があったので、日中におもむいただけだが。
 当時、実家からそれほど離れていないところで暮らしていて、メインの移動手段は原付だった。
 実家へ向かう道中、いくつあっても不思議ではない電信柱に「電信棒」は方言だったか、いずれ電信柱は我が国も地下に埋まる日がくるのかなどと思い巡らせていた。
 ——少しばかり変わった光景に気づく。
 電信柱にポスターが連続的に貼りつけてあるのだ。
 なにも電話をすればナニのできるソレではない。
 かといって、車に乗ったまま都合してくれるアレのコレでもない。
 流れ行く景色の中で伸びて映るそれらに、一瞬、蘇民祭のアッー! のような雰囲気を感じ取って、何本目かの電信柱で思わず停車した。
 神主のような——烏帽子風を被った男性がなにやら厳粛な雰囲気のもと、真っ赤な漆塗りの杯を両手で口元へ当て目をつむる姿が中心に映っている。
 サイズはA4か、小さく下部に問い合わせ先と開催期間のようなものが書かれていた。
(神事か伝統芸能かなあ……)
 すぐに発進する。なんにせよ、僕にはあまり関係のないことだ。

 実家で用を済ませると、とんぼ返りで自宅へ戻って、することもないので夕方まで寝ていた。
 ——ブリブリうるさいケータイのバイブに起こされる。
 なんのことはない。昼間、実家の用事に忘れがあったのだ。

   *

 実家に着いて忘れた物を届け、冷蔵庫を漁り戦利品をゲットした帰り、件のポスターがある道を通った。
 ——ポスターが変わっている。
 変わっていただけなら、それほどの不思議はない。たまたま誰かが貼り替えたのかもしれない。
 内容が前以上におかしくなっていた。
 真っ赤な背景。
 はだしのゲンのような絵柄のイラスト。
 ハチマキかました濃すぎる男児が、えげつない目力で訴えかけている。
<来たれ! 同志!>
 右翼か左翼かなんなのか。翼を授ける新手のなにか……なの、か? 戦時中にタイムスリップしたようで、心に落ち着きがなくなる。
 政治、宗教、警察、自衛隊、消防団、青年団、愚連隊、ヤリサー、裏バイト……いずれにしても妙ちきりん。海外協力がどうのなNPO的ボランティアなら激しく頭が痛い。
 お口をあんぐり、その場に留まる僕もどうかしている。
 ……濃い。なんしか濃い。
 眉毛が太すぎる。まだ困り眉だ太眉だ流行る以前の話だ。むしろ怒り眉と化して怒髪天を衝いている。
 閉じ込められた中で、への字に結んだ口が眉山に負けじと角度をつけていた。
 どの道、僕には関係のないことだから——

   *

 自宅の駐輪場に着いて、エンジンを切る。
 スタンドを起こし、メットインを開ける。
 ヘルメットを脱いで……
 髪の毛も一緒に抜けそうだった。
<来たれ! 同志!>
 荷台に一枚のポスターが乗っている。
 テープで止められた形跡もない。
 そもそも落ちてきた気配もなければ、走っている最中に落ちないわけがない。
 あるはずがない——
 ものが、そこにあった。
 現象もさることながらポスターの内容もあまりに気味悪く……
 ”入っている”女子よろしく、嫌々怖々手をかけてみればスッ——と離れるそれが、どう考えても風に影響されない代物でないことを再認識する。
 ポスターの端をつまみ、開口に時を埋めた。

 どういうご関係か存じ上げないが、どう懇願されたところで僕はなんの同志にもならない。
 単品で十分、やや本人の意向で珍妙なので、そっとしておいて欲しい。
 クルクルと丸めたそれは、後日、当時の職場のシュレッダーを無断利用する理由となる。
 あれ以来、あの奇妙なポスターは目にしていない。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
某

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