U.F.Oの作り方

 勤め先だったとある店で、閉店後にゴミをまとめていた。

 もうシャッターを閉めた店の入り口で一人作業していて、気配を感じて振り返る。若い男性が一人立っていた。ワカメみたいな頭だ。
 なにやら言いたげにゴミ箱を遠慮がちに指さし、口を少しばかり開いているように見えた。
(ああ、ゴミを入れたいのか)
 そう思った矢先、ワカメの兄ちゃんはこう言う。
「あ、あの……空き缶もらってもいいですか?」
 ゴミ箱のすぐ近くには飲料の自動販売機が設置されていて、その横に空き缶入れもある。
 少し戸惑って兄ちゃんをよく見るが、浮浪者風情ではない。
 シャツに半パン、バックパック。どこか優男で大学生風にも見える。
――空き缶ですか?
 欲しいのなら持っていってくれて一向に構わないが、散らかされると困る。
「あの、350のアルミ缶の……これ、コーラのやつとかが欲しいんです」
 大きな目玉が二つ。空き缶入れから飛び出したコーラの空き缶をしきりに指さす。
――アルミ、の空き缶を
 空き缶入れの上部をパカリと開ける。中は大量の空き缶ですし詰め状態だった。
 兄ちゃんの顔が輝いた、ように思えた。
「これとか、これとか……あと、これ」
――べつにいいですよ
 僕のその言葉に、兄ちゃんは嬉しそうにお礼を言うと早速飛びついた。
 空き缶なんかなにに使うのか? 少し不思議だったが、なにか工作でもするのかな、と考えた。
 なにかボーイスカウト的なものにでも入っていて、イカダなんかを作る材料――
 まだ、飲み残しがしたたる空き缶を気にもせず、ポイポイとバッグへ詰め込む兄ちゃんを傍観していた。
 開いたバッグからは、カップ焼きそばの空き容器のようなものも見え隠れしている。
――イカダでも作られるんですか?
 僕の問いかけに兄ちゃんは一瞥をくれて、
「ロケット作るんですよ。(ここには空き缶が)一杯あるからやっと作れる……」
 ああ、やっぱり工作か。思って僕は通用口から店内へ引っ込んだ。

   *

 小一時間、経ったころだろうか。店を出た僕は一服していた。
 もう兄ちゃんの姿はない。
 350mlのアルミ缶にこだわっていたが、なにか理由でもあるんだろうか? 考えていて、昔、図工の時間が好きだったことを思い出す。

“ピチョ”

 帰ろうとバイクにキーを差し込んだとき。ふいに額に冷たいなにかが落ちた。
 まさか鳥の糞じゃ、と指の腹で反射的にぬぐいとる。が、ベタベタしているだけでそれがなにか正体が知れない。
 指はそのままに空を見上げるが、星も見えない真夜中は黒々としてなにもなく――
 どうせ家に帰れば風呂に入る。まあ、いいかとバイクにまたがった。

“ポチョ、ポチョッ”

 ハンドルを握ったばかりの腕に今度は二滴。雨か? いや、そんな風でない。
 一体、なんだろうかと思って、さすがに舐めて確かめる勇気はなかった。
 顔を近づけて匂いを嗅いだ。
 どこか甘ったるいそれは、結局、なんなのか分からなかった。
 少しばかり空を睨みつけ、首を傾げてみせた僕はエンジン音を上げて帰路を歩んだ。

  *

 家に着き、バイクを停めたところでふと思う。
 まさかとは思う。思うが……
 先ほど空から落ちてきた水滴が、清涼飲料水の飲み残しだとしたら……?
「ロケット作るんですよ」
 兄ちゃんの言葉が頭をよぎる。
 ペットボトルロケットなら分かるが、アルミ缶でロケット……?
 これじゃまるでSFだ。宇宙船が壊れて帰れなくなった宇宙人が、修理の材料を求めて地上を彷徨いやっとの思いで帰れたとでもいうのか。
 バカに近くに思える月を見上げて……ロマンもクソもない。

 よう宇宙人の兄ちゃん。
 せっかく助けて上げたのだから、飲み残しをふりまき恩を仇で返すマネは止めていただきたい。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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