占い師のつくり方

 よく当たる占い師。
 電話のみの受付で……
 普段は専業主婦をする普通の人で……
 財界の大物や政界の要人、セレブなあの人からヤクザなその人まで噂がつきまとうかの人――

 是非、一度お目通し願いたいものだ。
 僕自身、あまり占ってもらったことはない。たいがいが女性専用かカップルなら可か……それでなくても道端やモールの中など野郎お断り感が半端ない。
 まあ、世の男性は普通あまり興味がないのだろう。占って欲しくても、中々機会に恵まれない。
 ただ、よく当たる占い師が「なぜよく当たるのか?」この原理の一端をご説明いただけたことがある。
 きっかけは、人伝てに耳にして直接足を運んだことにある。

   *

 電車の扉を手動で開かなければいけないような田舎に、そのオバハンはいた。
 田舎特有のだだっ広い平屋に通された先に広がるのは、ロウソクでもおかしな儀式の道具がある場所でもない。
 灯油ストーブがたかれ、湯気がくゆっては景色をぼやかし、ヤカンがピ~ひゃら鳴いている普通の民家だ。
 生活感溢れる居間で初対面のオバハンは、面倒臭そうに重箱のようなものを持ってきた。
 なにも言わず、その重箱からカチャ、カチャと木の札のようなものを取り出すと銭湯のロッカーの鍵のようなところへいくつかハメ込む。
 名前も生年月日も言っていない。ハデに色々と言い当てられた。
 なにが聞きたい? と言うので、とりあえず仕事をどうするべきか、なんて当たり障りのないことを聞いてみた。

「どうせ私がなに言っても、あーだ、こーだ言って、アナタは人の言うことなんて聞かないわよ」
 ……当たってはいる。それにしても初対面でお言葉だ。アドバイスぐらいくれてもいいだろうに。後々、こちらで勝手に考える。
 やる気ナイを通り越して、やる気ナイナイ。今いちこれといった答えをくれない。精神科にかかったら泌尿器科をオススメされたような、そんな気になった。
 まあ、占いなんてそんなものかもしれないが。

   *

 で、その占い師のオバハン――シワシワだからシワ子と勝手にあだ名つけした。
 こんな形で無駄足よろしく、五千円も払わされてはたまったものではない。以外に安いと思ったが、これでは、ただのマジックの見物料にすぎないからだ。
 まあ、本当にたまたま。追加料金を支払う条件で、なぜ色々言い当てられるのかを教えてもらった。

「悪い占い師は契約してんのよ」
 シワ子は僕の手土産の饅頭を食べながら、不機嫌そうに言った。
「餓鬼とかね」
 ……ボリューム満点のパーマ頭は、白髪染めも抜け落ちて猛々しい。作:漫☆画太郎みたいになってる。
――餓鬼って、あのお腹ポッテリの?
「それよ。一番低級なやつ、それと契約するの」
 契約なんて言葉を聞くと真っ先に思い浮かぶのは悪魔との契約だ。
 ユルバン・グランディエなる司教が、その昔、実際に悪魔と取り交わしたとされる契約書がフランス国立図書館に保存されているという話もある。
 しかしよりにもよって餓鬼とは、これまたなものが出てきた。
 西洋・東洋の違いはあれど、魔の物と契約するに当たって僕が思い浮かべるのは羊頭で角の生えた筋肉質のいかにもデーモンな……まあ、バフォメットさん辺りが打倒だ。
 で、契約には相応の代償がつきもので――想像につくのが魂とか寿命とか、あとは契……まぁ、シワ子に限ってそれはない。
「人間のために働くのは、供物をもらえるからよ。ご飯とか水とか」
 さすが、低級霊の代表格ともいえる餓鬼。かなりリーズナブル。
 どうやって契約するのか? いくらせがんでもシワ子は、そこまで教えてくれなかった。
――供物目当ての餓鬼と契約してどうするんですか?
「ビャっと飛ばして(占う相手のこと)調べるの。その間はそれっぽいことやってりゃいいんだから」
 シワ子でいえば、木の札のようなものをなにやらやっていたアレか。
 飛ばすとはどういうことか分からないが、契約さえすればいとも簡単に可能なことなのだという。
「しばらくしたら教えてくれんのよ。例えばその人のおばあちゃんが寝込んでるよ、とか」
 事前情報なしで幾つか言い当てられれば、たいがいの人間は信じてしまう。この人、本物だと。
「で、いくつか言い当てたら、あとは適当に喋ってりゃいいってわけ」
 以前にも触れたことがあったろうか、コールド・リーディングだろう。
 おそらくショットガンニングも併せて対話を行えば――
 知らず、知らず……よく当たる占い師のでき上がり。

「それで”ハイ、三万円”。そんな世界よ」
 シワ子いわく、餓鬼みたいな低級霊ではなくもっと上級なもの――
 それこそ、僕が想像に容易いとした高位なものと契約を交わせるだけの本物なら、なんでも分かるが普通は無理だという。
 格式高いものがそんな低俗なことに力を貸すはずがないし、そもそもそんな霊格の高いものを呼べるわけがない、と。
 仮に上手くして強力なものと契約を結べたところで、だ。ご飯にお水で済むわけもない。四半世紀守り通したこの操! ってなわけにもいかない。
 だから、餓鬼ぐらいの簡単なことしか分からなくとも、危険性が少ないものを選ぶのが妥当だとシワ子は言う。
――テレビとかで見かける人は、みんな契約してるんですかね?
「さあ……あ、不動明王がついてるとか言う人? あれだいぶ痛いわよ。たかだか人一人につくわけないじゃない」
――なら、やっぱり餓鬼とかと契約してる人が多いのですか?
「だから知らないって。契約してるのヤクザじゃないの? お供え物高そうだけど」
 まあ、シワ子のいわんとしてることも分からないではない。
 苦笑いを浮かべた僕は、これ以上、突っついてなにも出なさそうなので、切り上げることにした。
 しかし、どこぞの馬の骨とも分からぬ若輩なんぞに、よくテメエの飯のタネを教えたものだ。この強欲に見える人が。

「どうせ教えたところで、できないでしょ?」
 確かに。僕は餓鬼なんかと契約を結ぶ方法までは教えてもらっていないし、教わっても無理だろう。それに、そんな話にわかには信じがたい。
 早く帰れと言わんばかりのシワ子に、少しばかり興味を抱いた。
 金欲しさに適当を話ているとして、初めて聞く話でおもしろかったからだ。
 僕は少し意地悪く言う。
――小遣い稼ぎ程度だからバラしてもいいんですか?
 シワ子は、明後日を見て呆れたように呟く。
「……言ったのよ。私のアレが」
――ハ?

「アンタは約束は守る人だろうって。ハイ、三万円」
 カリフラワーお化けとの契約は、お高くつく。

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某

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