人が死ぬと、なんにせよ生きているものが動かなくてはならない。
「絶対に土葬で」
法律で禁止されてなお、僕の母の実家付近では頑なにそう希望する年寄り連中があとを絶たない。
その土地、土地の根付いた風習というものがある。正しい「手順」を踏まなければ成仏できないと、死んだあとを気にかけているのだ。
「テツがおらんくなったて!」
僕が母の実家でのんびりしていると、見知らぬおっさんが駆け込んできた。
生憎、家には留守番をしていた僕一人だったので、「アンタ誰じゃ?!」とわめくおっさんに家主の外孫であることを説明した。
「ほうか、ほしたらな、祖父さんか伯父さんに電話してくれんか?!」
母の田舎では、人が失踪すると警察とはべつで捜索隊を出す。いわゆる「山狩り」だ。
これをするときは、大体、察しがついている。テツさんは、母の同級生で弟の伯父もよく知っている人物だった。
*
二、三日してテツさんは帰ってきた。毛布にくるまれ、伯父が運転する軽トラの荷台に乗せられて。
山中で変わり果てた姿になっていた。遺書はなかったらしい。
この地域では土葬でも、一度、焼く。法律との兼ね合いだろう、風習は変化したらしい。焼いてから骨を埋め、一定期間をおいて掘り返すのが仕来たりとなっていた。
テツさんも土葬されたが、独身で親御さんもすでに他界されていた――天涯孤独の身だったのだ。
なんだかんだ伯父が、テツさんを掘り返す役回りとなった。
*
テツさんを掘り返す日。日が暮れても伯父が帰ってこないので様子を見てくるよう、僕は言われた。
朝早くに出て行った伯父は、まだテツさんを埋めた場所にいて、大きなスコップを杖に空を見上げていた。
「おう」
僕の姿を見つけると伯父は、首からかけたタオルで口を拭った。
「もうちょっとしたら帰る言うといて」
言って伯父は、おそらくは再開だろう地面を掘り返し始めた。
――力なく。僕の目にはどうにも探しているようには映らなかった。
「……多分な。出てけぇへんわ」
僕がなにも言わなくて、伯父は悟ったように言った。
なにを言っているのか。埋めた場所を見失なったのか? テツさんの骨を埋めて、それほど日は経っていない。土に還るにはまだ早すぎる。
「ここらは、首くくったもんの骨は出んでな」
この地域で埋めた自殺者の骨は、なぜかすぐに消え失せ、絶対に出てこないのだと伯父は言った。
僕が信じようが信じまいがどちらでもいい、そんな風な言い方だった。
その話が本当だとして――。
分かっていてなぜ伯父は、日がな一日中、地面を掘り返していたのだろうか。「決まり」があるのだろうか……。
伯父は手を止め、こちらへ笑った。
分かっていて――。
理解のできて納得のいかないことは、山ほどある。
鮮やかが過ぎる田舎の夕陽に照らされ、伯父は地面を掘り返していた。