結構な人数で某夢の国へおとずれたとき、あるジェットコースター系アトラクションの順番待ちをしていた。
僕は、それほど絶叫マシンが得意な方ではない。ゴメン。大嫌いデス。
それでも、どうしても乗れないというわけでもない。
が、そもそも遊園地という施設自体あまり好きではない。高いトコ嫌い、人ゴミ苦手、待つのヤだ……
だったらなぜ行ったんだという話だが、行ったものは仕方がない。夢の世界のヘビーユーザーの一人が得意気に語るに、このアトラクションは出口付近で写真を撮ってもらえるらしい。
と、いうか勝手に撮りやがる。
そこでシャッターチャンスに、それぞれポーズを取ろうというのだ。メンドクセエ。
僕だって夢の国の住人だ。ヘビーユーザーだ。負けてられない。妄想とか幻覚とか副作……いい写真が撮れたらイイネー。
*
1車体8人乗りのそれは、僕らのグループが丸々車体を一つ占領する形になった。安全を約束されたスリルをチマチマ提供してくれる。
安全は約束されたことに”なっている”気のしないでもないスリルもある。こういうの開演前のルーチンに追われて、整備・点検がむしろ一番おざなりになってるだろ絶対。ダメ。ゼッタイ。
「そろそろ、くるよ」
後方から合図が聞こえた。
自分が○○点検表とかに盲判ポンポン押す人間だからといって人様を信用できないでいるうち、前触れなく車体が急下降を始めて……
「ここ! みんな左向いてポーズ……ッ!」
絶叫と悲鳴、歓喜が轟く中で大声が張り上げられた。
*
「こちらで、お写真を販売しておりまーす」
誘導された出口で撮られた写真が、大型スクリーンに映し出されている。
僕らの少しあとから出発したグループの写真も横並びで展示されていた。
「え、どれどれ?」
そんな感じで少し探せば、一番、左側に僕らの姿を見つけ——
「え……ちょっと」
誰かがこぼした。
声の飛び交ううるさい中で、自分のグループの誰かなことが明瞭だった。
全員が無表情でいる。前方のバーも握らず膝に拳を置いて正面を見据えている。
写真の僕たちは示し合わせたように、同じようなそれぞれで収まっていた。
他のグループの写真は、カメラに向かってピースサインをしているもの、怖さの余りうつむいているもの、髪を逆立て大口を開けているもの——各々が様々だ。
「え、なんで?」
両手を上げてた、怖くてうつむいていた……それぞれが記憶を口々に主張する中で、僕はぼんやりしていた。
「え、買うの?」
——うん
一人、おかしな写真を購入した。
普通に撮れていたなら一枚千円以上もするボッタクリ写真なんか買うことはない。
購入した写真もおかしなままだった。全員首を傾げた。
*
帰りの新幹線でふところに入れた写真を、そっと取り出す。
相変わらず全員が全員、仏頂面で真正面を見据えている不思議な写真だった。
——冷静に見ておかしなことに気づいた。
誰一人、髪が乱れているものがいない。
当時、坊主頭だった僕や、ジェルでガッチガチに固めたツンツンくんならまあ分かる。
ふんわりボブちゃんはどうなる? おかしい……
あれだけの急降下だ。髪が逆立ち乱れて当然のこと。
縮毛強制にヘアーアイロンのあの子は? そんなハズない。だから、こんなハズない。
スクリーンに映し出されているときは、どうだったか覚えがない。買ってすぐの写真がどうだったかも知れない。
そもそも、ポーズを取っていないのがおかしい。合図が出された時、左斜め上で強烈な閃光を感じている。
シャッターチャンスを違えたとは思えない。
——拳を作って膝に置くようなマネは、一度足りとてしていないのだ。僕は、ほとんどを前方のバーに頼ってやり過ごしていたのだから。
まるで、集合写真のように整列する奇妙な写真に違和感を覚えながらも、ふところへと閉まった。
*
「あの写真見せて」
新幹線から降りて、タクシーを待っているところで一人に言われた。
ポケットを漁り、写真を取り出す。
「あぁ……?!」
写真を見たがった人間が、声を上げた。
「変わってる」
言って、写真からすぐに目を離したそいつが、僕へ向き直した。
僕たちの姿は、各々が豊かな表情になって映し出されていた。髪は風になびき、前方のバーを握り締めたままうつむいている人間もいる。
——買ってから……新幹線で見たときまでは、おかしなままだったよ
僕は、そう答えるしかなかった。