ふぁむ・ふぁたーる

 元同僚のハルカは、自分の母親と仲が悪い。

 べつに継母というわけではない。実の母だ。
 存在自体に生理的嫌悪感を覚えるほどで、一般的なソレではなく、もっと乾いた険悪さだという。
「人が言うのとは違ってさ。分かるんだけど、人に言っても分かってくんないんだよね」
 主語がない女の言うことなど分かるか。僕はメンタリストではない。……僕も主語がないと、よく言われるが。
「この前、旦那と占いいってきてさ」
 ストローのような細長いタバコをふてぶてしくくゆらすこの女は、18で32の男とデキ婚した。歳の差婚に強く影響したのが、父親の存在だったことは自他ともに認めている。
 ハルカの親父さんは前妻と死別していて、再婚してできたのがハルカだ。
 年のいってから、二人目の相手でできた初めての子――それも、一人娘だ。甘やかさないわけがない。

「ねえ、聞いてんの?」
 お前が「BDレコーダー壊れたから見にこい」言うから、ワシャ必死で直しとるんちゃうんか……
 ふと見ると、ハルカと親父さんらしき人物の写った写真がビデオボードに飾ってあった。
 ハルカはファザコンを認めても、母親との関係がよくないからそうなったわけではないと主張する。
 実は母子関係が上手くいかないのは、娘の一方的なものではない。母親の方でも問題がある。
 ハルカが成長するにつれ、親父さんの死別した前妻、赤の他人であるはずのそれに似てきているとお袋さんが言い出したそうだ。
――お母さんも写ってる家族写真ないの?
 どれほど似ていないのか気になった。血の繋がりのなくて似ることはあって、実子で似ないことなどあるのか。
「あの人と写ってんのなんて、あるわけないじゃん!」
――ならお父さんの前の奥さんのは? 
 ハルカは少し黙って、
「全部、捨てたらしいよ」
 声にしない”あの人が”が続いて聞こえる。

 いくら前妻に似ていて、腹を痛めた我が子を憎む理由にまでなり得るのだろうか? もうこの世にいない女のことで。男には分からない。
 どうでもいいけど、なぜ家電が壊れて僕が呼ばれるのでしょう?
「ヒマでしょ? 電気屋呼んだらお金かかるじゃん!」
 ……いくらヒマでいて、呼びつける理由になり得るのだろうか? 女は分からない。
「なんて言われたと思う?」
 一瞬、なんのことか分からなかったが、「占い師」にが抜けていることを悟った。
――あなたは、お父さんの前の奥さんの生まれ変わりですとか?
「それ!」
 半身を乗り出し、テーブルに片手突いて騒ぐくずまんに、「灰が落ちる」と文字通り煙たい顔をしてやった。
 分かるもなにも、たいがい占いなんて統計学と誘導尋問の合わせ技でできている。ハルカの家庭事情を一通り聞けば、言いそうなこと。
「私、パパに前の奥さんがいたこと言ってないんだよ!?」
 あなたの子よ! と迫られている気分だ。あ、ゴメン種ないから。
「私が前世で旦那と出会ったとき、旦那16だったらしいの。私、そのとき30で……半分、望んで事故で死んだらしいんだよ」
 淹れてくれていたコーヒーを見つめた。
「私の前世が、パパの前の奥さんってことでしょ? 前の奥さん事故で亡くなったんだよ。そこまで当てられてたらさすがに怖くない?」
 ハルカ自身も親父さんの前妻の死因は知らなかったらしい。占いにいったあとで確かめたらしかった。
 珍しく整理のついたハルカの話は、それでもややこしい。
 その占い師は本物じゃないの? 言って、マグカップに手をつけた。

 占い師によれば、2ヶ月後に生まれ変わったという。ハルカが16のとき、30歳になった旦那さんと再会したらしい。
 よかったじゃないか、一緒になれたのだから、軽々しく答える僕にハルカは首を軽く振った。
「生まれ変わったのどこだと思う?」
――前世の旦那の新たな家庭?
 ハルカはしばらく僕と目を合わせたあとで、ゆったりとした瞬きに視線を逸らした。あ、女の人のその感じ、すっごい怖い。
――つまり、パパは前世の旦那で、ママはその後妻?
 色々と頭がこんがらがってきたが、ハルカは心なし青い顔をしている。
「でもさあ、ひどくない? 普通、占い師っていいことしか言わないんじゃないの? 人を悪女みたいにさあ……」

 輪廻の因果は禍々しく――
 若い男と一緒になりたいがため、知らない女に新しい自分を産ませたあげく、嫌悪し、前の旦那までその手中に収めていようとする。
 ……ひどいのは、アンタやがな。

 明後日を見ながら、中々口をつけれずにいたコーヒーを口元へ運んだ。猫舌には、まだころ合いでなさそうだ。
 新しい自分は、それでも愛しい前世の男の種で生まれ、せめてもの罪滅ぼしなのか。

 ――これを種にホラーが一本書けそうだ。こういうことを言うと、作家は怒るだろうが。むしろすでにありそう。映画化のさいは、是非、似ても似つかぬ栗山千明氏辺りの主演で元ネタが分からぬように。それでも嫌ならハリウッド・リメイクでもしてもらえ、別物になる――

「それ、占い師のババアにも言われたーっ!」
 時間差で悪女が騒いだ。おかげで、熱々コーヒーの顔射をちょうだいした。

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某
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