家宝はここ掘れ

 お天道様が、これでもかと照りつけるある真夏。

 灰になりそうな身体を引きずり、わざわざ向かった先にロクなことが待ち受けていないのは分かっていた。
<誰も来てくれない、助けてくれ!>
 そりゃあ、誰も来ないだろうという内容のご連絡だった。
「今いくら持ってる?」
 から始まり、
「このままだと殺される! 頼む!」
 で、終わる内容にノコノコいくのなんか僕ぐらいのものだ。
 相手は、しばらく疎遠だったモギという男。百害あって一利なし。
 こういうときしか「お前しかいない」と言ってもらえない悲しい人間は、それでも悲しい行動をする。

   *

 グレーゾーン金利だ、過払い請求だと叫ばれる以前。闇金はそこいら中にあったし、サラ金は主婦にも平気で貸しつけていた。
 年利も初回申込で29.4%程度が相場。バックが銀行でも責権は売り飛ばされ、取り立てがやってくる。
 と、いっても初回は説教くらって、そこいら中に電話させられるぐらいのものだったが。

 久方ぶりに会ったモギはパンツ一丁で正座させられていた。
 脱がすコトに果たしてなんの意味があるのか知らない。一枚の慈悲の意味もサッパリ分からない。
 モギの家へ着いて、案の定いかちいオッサンがお出迎えしてくれて、当時の僕のナリに同業者と勘違いされる面倒な一幕あって……ようやくお目通しの叶って、だ。
 ともかくモギのその月の最低返済金額だけを立て替え、オッサンたちにはお引取り願った。
 なんだかこの状況がおかしくって、ツボってしまったものだから、「お前のお友達大丈夫か?」なんてオッサンたちにドン引きされたが、まあそれはそれ。

 で、べつに話もない。これからも、二度目もない。どうしてこうなったか、大体予想はつくし興味もない。
 いいお勉強をさせてもらったので、帰ろうとした。時代が時代なら拡散希望だ。
「俺は今ここで死ぬ!」
 モギが、わけの分からないことを言い出した。
 死ぬぐらいなら弁護士にでも相談しろといったが、親や彼女に迷惑をかけたくないので首を吊るという。
 余計、迷惑かかるわ。僕はすでに迷惑こうむっている。
 多額の借金を抱えると最後は身内を毒牙にさらすか、無抵抗なプライドと背中合わせで沈むかどちからかだ。
 弁護士や警察に中々相談できずにいることが本当に多い。なぜだかそうなってしまう。

――お気張りやす
 それだけ言って僕はその場をあとにした。素人が人に金を「貸す」なんてことのないことぐらい分かっている。夢見の悪くなって困るから、一度きり手を差し伸べただけ――

   *

 数ヵ月後、モギから突然のメールがあった。
<全部片ついた。あのときは迷惑おかけしました>
 誰かに泣きついたのか、どこかの窓口に相談したのか聞いたが、どれも違うと言う。
 返信を打っている最中に電話がかかってきた。
 あのときの金を返すから銀行口座を教えてくれという。それはもういいから、なぜ借金が片付いたのかたずねた。

「夢見て。死んだばあちゃんに連れられて歩く夢」
もう誰もいない、モギの祖母が住んでいた家の庭の一角を、夢の中で祖母がしきりに指差すという。
 三日連続で続けて夢を見たものだから、藁にもすがる思いでうん時間かけてそこまで歩いていったそうだ。

 ここ掘れワンワン。掘り返せば、埋蔵金でも出てきたというのか?
「ばあちゃんの遺品が出てきた。時計とか指輪とか……家族も知らんかったし、俺宛に手紙も入ってた」
――なんて?
「残してやれる遺産はこれだけやと……困ったら使いなさいって」
 受話器越しのモギに嘘は感じられなかった。
「ばあちゃん昔、金貸しやってたらしくて。そのときの担保に取った品だから気にするな、って」
 まあ、そこまで驚くような金額にはならなくて、金・プラチナの類なら現金化は効く。
 それでもにわかには信じがたい。ただ、現金化するに時間がいるから、それまでを立て替えてくれないか? 返済期限が迫っている……なんて話にもなりかねない。
 本当は片づいていなくて、メドも立たずに裏で絵を描いているやつがいるやもしれない。
 それはよかったね、僕は一方的に電話を切った。

 仮にその話が本当だとすれば、何十年も前に人に貸しつけた金の担保に取った品で孫の借金を弁済してやったわけだ。粋な計らいに感心せざるを得ない。
 金は天下のなんとやらは正に。借りるは仏、返すは鬼。女手一つ金貸しやろうなんて強烈なバアさんは、業の整理のつけ方というか……そういったことの心得があったのかもしれない。
 なんて、一人思いふけった。

 数週間後――
 どこで調べたのか僕の実家に現金書留であのときの金が返ってきた。
 モギの話が本当だったかはしれない。
 ただ、貸した金が返ってきたという本当には驚いた。
 そちらの方が、よっぽど奇異な話だ。

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某
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