あやふやなヒト

 交差点に差しかかる。
 赤信号が目に入った。だから、止まった。
 小学生――
 高学年ぐらいの男の子に見えた。向こうから信号を無視して小走りに横断歩道を渡ろうとしている。
 車が走っている。トラック、バス、タクシー、バイク……
 タバコを吸いながら走ってくる。男の子が。路上喫煙にいち早く罰金つきの条例を敷いたうるさい地域で。
 明らかに児童にくくられる背格好の男児が。

 ――車は急に止まれない。

 急ブレーキの音もない。クラクションの一つも聞こえない。
 予測すべきも降って湧いたようなもなにも、とかく危険などないといわんばかりに車は走る。男の子も前しか見ていない。
 フードを目深にした赤いパーカー。
 男の子が僕の右隣りを走り抜けて、くゆらした煙は立ち消え、粘りつく溶けたカラメルのようななにおいが残った。

 ――視覚障碍者用の音楽が鳴る。人々が一斉に歩を進める。

 タバコを押さえていた手が男児にしてはあまりに大きく、大人の手ともつかない――なにかまだらにシリコンでも注入したような、そんなブクブクと膨れ上がった手だった。

 幽霊というのは自分が死んだと気づいていないとき、どこか不安定な生きているヒトの形をして交差する別次元を彷徨っているらしいですよ?

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
某

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