袋はイロイロ大事で謎

 僕には父方の祖父の記憶がない。
 生まれたときには、すでにこの世を去ったあとだった。父でさえ、あまり記憶がない時分に他界しているのだから仕方ない。

「私も生まれる前におじいちゃん亡くなってるんですよ」
 十時間ひたすら「がんもどき」だけを製造する地獄の中で、パートのシミズさんがそう話してくれた。
「でもね……」
 主婦らしい慣れた手つきが、器用に”がんも”を作り上げる。
「みんな信じてくれないけど、私おじいちゃんに抱っこされた記憶あるんですよ」
 どうでもいいが、がんもが上手く作れない。
「家族が言うには私が産まれる前に、もう亡くなってた、って。でも、顔だってなんとなく覚えてるし」
 不思議な話だ。幽霊にでもあやされていたというのか。
 ……がんもが上手くでき上がらない。
「あ、おかしいですよね。こんなこと」
 おかしい……なにをどうやってもぶちゃくなる。やられすぎたアンパンマンみたいだ。
「布団の中で抱っこして添い寝してくれたんですよ。ゆりかごみたいで、すっごい気持ちよかったんです」
 それが今だに引っかかっていて、どうしても真相を知りたいのだけれど、どうしようもないのだという。
 旦那さんに言っても、「またその話か」という顔をされるので家では話題に出せない。だから、そこかしこでこの話をしているらしい。

「イタコの知り合いとかいないんですか?」
 人をなんだと思っているのか……。いるわけがない。
 いませんよ。どうして? 機会がなかったからです。ホントに?
 僕であれば普通じゃない人と知り合いなハズだと、シミズさんは割と本気で当たってくる。

 ……たいがい、しつこい。

「えー、でも。なんかさんの周り変な人ばっかいそー」
 なぜ主婦は、笑顔でサラリと嫌味を挟んでくるのか。言わないと気が済まないのか。
 年上の主婦じゃなかったらブッ飛ばすぞお前、って口寄せより口づけすんぞ「えー、でもぉー」じゃねえよ、二次関数的に語尾上げんな歳考えろテメッ……

   *

 そんな折、たまたま自称霊感ちゃんにこのことを話してみた。
「お母さんのお腹の中にいるときの記憶なんじゃないかな」
 そういうのあるらしいよ、と言われれば、そうなんですか、となるわけで……
 伝書バトのようにシミズさんへ、受け売りな見解を伝えた。

「なるほど……そういうことなんですかねぇ?」
――さあ、でもあるらしいですよ
 え? と、シミズさんの動きが止まる。
 目をやって手を止めた僕に、シミズさんは虚空から勢いよくこちらへ顔をくれた。
「でも、それって……ッ! 私がお腹にいるとき、おじいちゃんと私の母親が一緒の布団で寝てたってことですよねえ?!」
 目ん玉かっ開いて、鼻息荒く迫られても困る。
――そういう考え方もできます、ね。
「抱っこして添い寝で、揺れながら凄い気持ちい……っ!」

 蒸し暑い作業場で沈黙が冷たい――

 それはなにか。つまりシミズさんのお母さんが身重で実の父親とアレして、いんぐりもんぐりなオッパッパだというのか。
 二人、見合わせたまま固まっていたが、気まずくなって自然と離れた。
――考え過ぎですよ。自称霊感ちゃんの言うことですから
 仮にその見解が正しくて、うがった見方をしすぎだ。
「ですよねぇ……」
 引きつった笑顔のシミズさんが、珍しくいびつながんもを作る。手が震えていた。

「ああコレ……タマタマ袋みたいですねぇ」

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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