スーパージャンプ

 小学生のころ、集合住宅の屋上から隣棟の屋上に跳び移るという遊びが流行ったことがある。
「スーパージャンプ」
 今にして思えば、一歩間違えば死んでしまう危険行為をこう呼び、飽きもせず毎日のように行っていた。
 そんな遊びもついに跳び移り切れなかった人間が出て大人の知るところとなる。
 自分はその現場にいなかったが、奇跡的に一命は取り留めたようだ。

“無理やり飛ばされた”

 問い詰められての苦しい言いわけだろう。おそらく、自らの意思で飛んでいる。
 この一件がPTAに知れ渡ると、スーパージャンプはこれを直ちに全面禁止された。
 ただ、ダメですよと言われて素直に言うことを聞くほど子供は賢くない。
「アレ、人死んでるぞ」
 どこかで誰かが兄や上の代からそう聞いても、誰も間に受けなかった。危険行為を止めさせる嘘だと思ったし、どちらでもよかった。

   *

 ある日、いつものように四人でスーパージャンプに興じていた。
 これは、基本的に一人ずつ順番に跳んで行く遊びだ。「同時跳び」なるパターンもあったにはあったが、あまりやることはなかった。
 そのときは先に跳んだ人間が隣棟に着地後、背を向けたまま目をつむって待っているアレンジ案が出されて、そうすることになった。
 新入りが一人混じっていたので、そいつは最後にお試しで跳んでみるだけ――後の三人はジャンケンで跳ぶ順番を決めた。

 一人目が跳んだ――
 いつもの光景だった。

 二番手が跳ぶ――
 一番手のすぐそばに着地して、「怖い!」と声を上げた一番手がその楽しさを伝えてくれた。

 自分の順番がきて跳び立った。
 盛り上がりはさらに高くなっていった。
 わくわくして最後の人間が跳んでくるのを待つ――

 ドン!!

 僕のすぐそばで大きな音がして、心臓をたくし上げる。

(これは楽しい!)

 目を開けた。そばには二人しかいなかった。自分の後で跳んできたハズの人間はまだだった。

(アレ? 音がしたのに)

 ほかの人間も目を開けて不思議そうにしている。確かに着地の音は聞こえた。
 見ると向こう側で一人まだ残っている。
 なんだまだ跳んでいないのか、そう思ったとき、
「跳べないよ」
 最後の一人が弱々しく言った。新入りだった。
「早く跳べよー」
 誰かが言ったとき、

 ドン!

 こちら側へ誰かが降り立つ音がした。全員、顔を見合わせた。
「ねえ、跳べないよ。コッチきて」
 新入りは、まだ向こうでグズっている。

 ドン!

 また、音がした。
 ダン! ドン!
 誰かが悪戯にその場で足を踏み鳴らしているのだと、全員が騒ぎ出した。
「早く、跳べ!」
 怖くなった僕たちは、向こう側の新入りに口々に催促した。もう、この場を離れたかった。

 ダン! ドン! ドン! ダダン! ダン……

 明らかに十ではきかない数のこちらへ降り立つ音が、重なって聞こえ出した。
 止まらない。鳴り止まない。まともに聞こえる。
「跳べないよぉ……」
 か細い声をかき消すように悲鳴を上げた僕らは、新入りを置き去りにして逃げ去った。

 置き去りにした新入りは誰が連れてきたのか、誰も名前も知らなかった。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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