誰がために塩は煤ける

 葬式に出なければいけなくなって、少し頭を悩ませていた。
 実家住まいのときは、人の葬式から帰ってくると留守番の人間に玄関で塩をまかせてから家の中へ上がるのが我が家のルールだった。凶事を避ける一種の民間儀式みたいなものだろう。
 一人暮らしだと葬式から帰ってきても家の中から塩をふってくれる人間がいない。
 どちらかといえば大して気にするタイプではないが、小さなころからの習慣は”やらない”ということがなにか気持ち悪い。
 参列自体を止めてしまう選択肢は、よぎってどうにもマズイ。
 仕方なく家の中を漁っていてオブラートが出てきた。それに塩を包んで持って行くことにする。

   *

 参列を済ませ、誰も待っていない自室の前に立つ。
 懐に忍ばせたオブラートを取り出した。
 ……式の最中、肌身離さず持っていたコレを振り撒いたところで効果はあるのか知れない。

 ――どうにもおかしい。

 色が変わっている気がする。
 座り込んで、丁寧にテープを解いて……

 塩は踏み抜かれた根雪のようにドス黒く変色していた。

The following two tabs change content below.
某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
某

最新記事 by 某 (全て見る)