秘匿の心得

 まだ様子がおかしくて心配してもらえた歳のころ。
 以前に発症した盲腸が再発しそうだというので騒がれていたら、母の実家に帰省したときに祖母が近くにある「不思議な石」に再発するかどうか聞いてやると言い出した。
 祖母いわく、この石は「なんでも答えてくれる石」だそうだ。聞きたいことを口に出してから石を持ち上げる――

 すんなりと石が持ち上がれば答えはイエス
 根の張ったようにビクともしなければノー

 そんなような寸法だ。全国津々浦々おもかる石伝承とさしたる変わりはない。

の盲腸はもう出ない」
 言って祖母は、ひょいと石を持ち上げた。
の盲腸はまた出る」
 言って、また石を持ち上げようとする。
「重たい、重たい。持ち上がらんわ」
 腰をさすった祖母は僕の方を振り返り、
「盲腸はもう出ん」と、頭を撫でた。

   *

 子供騙しだと思ったのは母も同じようだった。
 祖母のあとで母も自分も同じことを試したが、結果は同じ――母が本当に信じたのか帰ってから、はしゃぐように祖母へたずねていた。
「だから神さんや」
 祖母は素っ気なく答えていた。
「あんな石、昔からあった? 知らんかったけど」
「昔、わち(私)が守り(世話)しとったさけな……」
 のらりくらり母をすかす祖母は、依然として詳しいことを語らなかった。
 もっと聞きたいことがあったのにとダダをこねる母に祖母は、
「あんまり聞くと怒る」そう漏らした。
「なんでもっと早よ教えてくれへんかったんよー。嘘やと思ってたから道もイマイチ覚えてないしー」
 子供の前で子供のように親へむくれる娘を祖母は、よく知らぬ赤の他人の大人を相手する子供のような会話の仕方――老人らしい勝手喋りでやり取りしていたようだった。

「あんまり、ええ神さんでもないしな」

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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