呪い代行

「俺を呪ってくれ」
 カタヤマ(不信参照)から、とんでもないお願いをされた。
 いわく、ミサキさん(不信参照)に「今日は出かけない方がいい」と言われたにも関わらず、出かけて事故に遭ったらしい。

 事故自体は大したことなかったが、そのことで誰かが悪い念を送っていると主張するミサキさんと、ただの偶然だと主張するカタヤマの壮絶な論争……。
 平たくいえば、ただの痴話喧嘩だ。胸糞悪い。
 それで、僕に自分を呪えという。喜んで引き受けようではないか心の友よ。
 どうせなにも起きやしないからこれで信じるだろうと、カタヤマは言う。
 ミサキさんのお友達を紹介してくれるというので、僕は快く承諾した。ビバ! Give&Take
 だが、残念なことに僕は正式な人の呪い方など知らない。
「あ、私時々やるよ」
 占い呪いは、男より女だ。思って、知り合いの女性に当たれば、結構な確率でこんな答えが返ってきた。
「手を組んでひたすら祈るだけ。死ねって」
 ……怖いわ。
 仕方ないので、呪い代行サイトにお願いすることにした。
 どことは言わないが、本物っぽいものを選んで依頼をかけてみる。
 よく分からないが、「最強の丑の刻参り連続七日間コース」にした。うさん臭い。
 自動返信メールのあとで、一時間も経たないうちに詳細な返信が送られて来る。
 呪う相手の氏名、生年月日、呪う理由、その他分かる範囲で詳細な情報を折り返し連絡してくれとある。
 適当な偽名でごまかしてもいいが、真剣にやらないとあとがうるさそうなので全て正確な情報で埋めた。ただ、呪う理由だけは「頼まれたから」とは書けない。
 孕ませられて逃げられた、とした。当たらずも遠からずなことがあるだろう。

 カタヤマ持ちの代行代金一万円を振り込んだ翌日、なにやら郵送でブツが届いた。
「ご自身も一週間、効果倍増のため深夜一時から三時の間は一緒に呪ってください」
 そんな一文と明らかに百円ショップで買い揃えたであろう、ちゃちな数珠と方位磁石。
 万が一、呪い返しがあったときの身代わりにと、確実にコピー用紙を切り抜いただけのふざけた形代。
 チープなそれらが中身だった。
 まぁ、そんなもんだろうと一応身に着けつけてカタヤマの爪と髪の毛も指定の住所へ送り、万全の準備は整えた。
 依頼からちょうど一週間後、呪い代行は始まった。
 しかし、ご自身も一緒に呪えといわれても困る。カタヤマはうっとおしいが、恨みはない。
 それでもと思い、本当にバカ正直に、真剣に、一週間ぶっ続けで二時間怨念を送ってやった。
 その間ピシ、ピシと家鳴りがひどく少々怖い思いをしたが、大切な友人のためだ。一心不乱に呪って差し上げた。

 一週間後、代行業者からカタヤマの爪と髪を閉じ込めたワラ人形は焼かれ、灰はなぜか東京郊外の交差点に撒いたと連絡が入った。
 山にこもって呪術を行う専属の祈祷師がいると謳っていたのに、なぜ都心で後処理を行うのか意味が分からない。
 とりあえず指示通りに数珠と人型は近所の川へ流した。
 すぐに呪いが完了したことをカタヤマへ伝える。
「どうせ、なんも起きんやろうけどな」
 案の定、そこからしばらく経ってもカタヤマの身になにも変化はなかった。

 ある日、カタヤマに呼び出された僕は、近所の公園にミサキさんを交えた三人でいた。
 ミサキさんに事の経緯が説明されたのだ。
「ほんで、こいつに呪ってもろてん。でもなんもないやろ?」
「それは、カタヤマくんのことを真剣に恨んでないからじゃないの? その代行が偽者か……」
 カタヤマは、ムッとしたが、どちらにせよ呪いなどこの世に在りはしないと力説を始めた。
 納得のいかなそうな様子のミサキさんは、黙ったまま上目にカタヤマを見ていたが、
「もう分かったから、なんか買ってきて」
 強い口調でカタヤマにそう命じた。
 最後のシュウマイ取られた顔で止まったカタヤマは、頭をかきむしる。そのまま、寒空の下、近くのコンビニへ使い走りにやられた。
 うしろ姿に哀愁が漂う……男女のパワーバランスは分からない。
 カタヤマの背中を目で追っていると、ミサキさんが口を開くいた。
「ホントに呪った?」
 まあ、真剣に呪わせていただいた。
「○日から一週間、凄い怨念きてたんだけど……?」
 眉根を吊り上がらせて、ミサキさんは言う。アレ? 結構、お怒りになられている?
 いや、待て。僕とカタヤマは呪った事実は告げたが、その期間は明かしていないハズ。
 ――あの代行、本物だったんだ
 よろしくないパターンの上目使い。押し黙るミサキさんは少し間を置いて、
くんのやつ(怨念)しかきてないけど」
 今度は僕が押し黙った。
「相変わらずカタヤマくん全部弾いてたけど……あのレベルの怨念弾けるってことは事故は偶然かもしれない」
 ――ああ、カタヤマの事故ね。アレ、ミサキさんのストーカーの生霊とかじゃないの?
 僕は、意味不明にテキトーこいた。
「分かってるんじゃない!」
 怒られた。友達の彼女に。
「あの日は、カタヤマくん弱ってる日だったの! だから、家から出ないでって言ったのに……」
 そもそもの原因は、お前への好意やんけ。合法ロリが。
「なんでそんなことするの?」
 急に肌寒さの増す夜の公園で明後日の方向を見つめた。ブランコが一人でに動いた気がした。
 ――ミサキさんは大丈夫だったの?
「一時から三時の間、カタヤマ君から離れられなかったんだよ! ずっと、寝れなかったんだから!」
 ミサキさんは、今にも泣き出しそうだった。僕も泣きたかった。
「怨念を意識的に送るって凄い疲れることなんだよ?」
 カワイソウ。自分カワイソウ。オカン思い出す。
「恨んでもない人にあれだけのもの一週間続けて送れるって……普段、どんなこと考えてんの?」
 なぜ、協力した僕がこんな目に。
「最後の日、凄いの来たんだから! カタヤマくんいなかったら、死んでたよ私?」
 プレイ? コレなにプレイ? ……凄いのって、なに?
「頭おかしいんじゃないの!!」
 ハイ……オカシイデス。
 止めの一撃をしっかり終えたあと、飲み物を三本抱えて走ってくるカタヤマが見えた。
 ただならぬ雰囲気に白い息を上げながら、僕とミサキさんを交互に見やる。
「なんやお前ら? まあ、とりあえずこれ」
 カタヤマが手渡そうとして、二人とも受け取らなかった。
「あ、お前人の女泣かすなよー。なんか、変なコトされたんかコイツに?」
 カタヤマは、ミサキさんの顔を覗き込んだ。
 変なコトはした。お前に。てか、させられた。
「もうおかしなこと人に頼まないで!」
 ミサキさんは、感極まってうつむき叫んだ。帰りたかった。
 ――僕の送った怨念は今ドコに?
「知らない。自分のトコに返ってるんじゃないの?」
 冷たかった。ホント冷たい。なぜ、この時期に冷え冷えのミルクティーを買ってくるのか。バカかコイツ。
 まだそんな話をしてるのかと、今度は自分が怒り出したカタヤマは無視された。
「帰る!」ご立腹のミサキさんは、足早に歩を進め出した。
「すまんな! また連絡する!」カタヤマは、小走りにあとを追った。
 一人、取り残されて逆に帰りたくなくなった。とりあえずブランコに乗った。

 翌日、ゴメンなさいメールがミサキさんから届いた。
 頼まれただけなのに……。
 色々、お世話になってるのに……。
 色々と気にしないで……。
 するわ! ……ん?
「私の友達ちゃんと紹介するから」
 前言撤回。分かればよろしい。
 呪いなど、この世には存在しない。

「え、なんでアンタなん?」
 ウキウキしながら待ち合わせ場所にいると、アホみたいな女に言われた。
 アヤノ不信参照)だった。
 結論。呪いはなくてもバチは当たる。

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某
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某

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