おかしな家

さんとこお坊さんきます?」
 以前の勤め先へ久方ぶりに顔を出したとき、ちょうど勤務を終えたコウタに聞かれた。
「僕の近所、昔からお坊さんが周ってくるんですよ。うちの近くだけかなあと思って」
 実家には一、二度ばかりお寺さんがきたことのあったような、なかったような……。
――托鉢にでもきてるんじゃないの?
 閉店後の閑散とした駐車場。冷たいアスファルトの上に座り込み、コウタはなにやらうなっていた。
――托鉢だよ。身なりのいい乞食みたいなもんだよ
「相変わらず口悪……バチ当たりますよ」
 でもね、コウタから笑顔が消えて続く。
「どうも最近、僕の家と隣の隣しか周ってないような気がするんですよ」

 雲行きは怪しくなり、少し不気味なことを言うなと思った。風の音が強くなり、互いに自然と視線が外れる。
「それでね。どうもその坊さん”この辺で二件だけおかしな家がある”って言ってるらしいんですよ」
 コウタの家は知っているが、中までお邪魔したことはない。碁盤の目に入り組んだ背中合わせの住宅街で、構造は似たり寄ったりな家が多かった気がする。
――霊的なものなの?
「なんか鬼門がどうの……でも、構造がおかしいってのはあるかもしれないです」

 コウタが大きくなり、子供部屋を無理やり間仕切りしたらしい。始まりはそれだった。
 同居する祖母のためにバリアフリー化して、下の子も大きくなって――
 色々とその場、その場で手を加えていった結果、建築的観点から見てもおかしなことになったらしい。
 複雑化しすぎて、簡単にココだけを直す、というわけにはいかないみたいだ。
「玄関入ってすぐど真ん中に階段あるんですよ。それがダメみたいなこと言われたことがあるらしくて」
 なにかテレビで見た気がする。匠がナニする番組だった気がするが。
 コウタは、足元にできた吸殻の山を見つめて腕組みした。
「たまに弟子みたいなの引き連れて”アー”だの”オー”だの、でっかい声上げてお祈りするんですよ。怖いでしょ?」
 それは怖い。色んな意味で。だが、その仰々しさこそ托鉢の正しいやり方だったような気もする。
 お金ちょーだい、って。
「かなり気色悪いんですよ、まあ昼間だからいいんですけど」
 借金の取り立てでも午後何時以降はダメですよなこのご時世に、さすがに夜はない。托鉢なら、だが。

 色々浅はかな知識とうろ覚えの記憶を辿っていると、ごく最近では風呂場がおかしいと言われ出していることをコウタが明かした。
 霊感商法の類ではなさそうだった。金銭の要求や物品の購入を迫られているわけではないという。
 変わりはないかと気にかけ、お祈りをさせてくれとお願いされるだけ、あとはなにもない。
――お風呂も構造がおかしいの?
 コウタは首を振った。
「でも、僕のおばあちゃん、お風呂で死んでるんですよ」
 それから、怖くて夜にお風呂入れないんですよねえ……。

コウタは、まだくすぶっていた吸殻を踏みつけて揉み消した。

The following two tabs change content below.
某
ヤレバデキルコモドキ科。@032nanisorebou3
某

最新記事 by 某 (全て見る)