コール

 漫画喫茶で暇を潰していた。
 トイレに立ち、用を足していると電話のコール音が店内に鳴り響いている。

 平日の真夜中で、客はほとんどいなかった。
 プルプル、プルプルいつまでも鳴り続けるコール音に、少々イラ立ちを覚える。
 ただ、一般的な客商売の深夜帯は、基本的に客数が少ない。大体の決まったピーク時間もない。
 以上の理由で、アホみたいな作業量が割り当てられている場合も多いので、店員さんも忙しいのだろうと思っていた。
 けれど、割り当てられた個室に帰ろうと近づくにつれ、コール音は僕の部屋から鳴っていることに気づいた。
 てっきり他の客がフロントに注文でもしているのかと思いきや、フロントから僕に対して鳴っていたわけだ。
――ハイ。
 電話を取っても返事がない。
――もしもし?
「ザッ……ザー、プー、プー……」
 砂嵐のような音を立てて、電話は切れた。
 仕方なく受話器を一度置いて、フロントにかけ直す。
「ハイ、フロントです」
――お電話いただきました?
「いえ……こちらからは、お電話しておりませんが」
 こんな感じで、お電話はいただいていないご様子だ。

   *

 しばらく、そんなことは忘れて漫画を読んでいた。
 そろそろ帰ろうかーー
 もう一度トイレに立って用を足していると、またも電話のコール音が鳴り響いている。
 そしてまた僕の部屋からだ。
――ハイ?
 タイミングの悪さに、少々語気を強めてしまった先、
「……ゴボッ…………
 水中にいるようなくぐもった声で呼ばれたのは、僕の名だった。
 グボッ……! と口から耐えかねて泡を吹いたような音のしたとき、悪寒が走って受話器を乱暴に置いた。
 よく分からないが、押し寄せる寒気をこらえてすぐに店を出た。

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某
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