釣った釣られた

 すべきコトは、さて置き。したいコトは、置かざらず。
 あまりにヒマだったもので、近所の川で釣りにいそしんでいた。平日の真昼間から。

 家に眠っていた背もたれもないアウトドア用の小さなイスに腰かけ、垂らした糸をぼんやりと見つめる。
 べつに釣れても釣れなくてもいい。

 仲よさげな男女が歩いてくる……幸せそうだ。
 二人して僕のそばに腰を降ろした……なんで?
 イチャコキ出した……鼻フックの素晴らしさでもお教えしようか?

 人が、小汚いフナも頭の悪いブラックバスでさえも引っかけられないでいるのに、なんの嫌がらせか。
 なんだか二人の世界に飲み込まれて気まずく、場所を変えようと思ったときだ。
 高架下、足場を挟んだ浅瀬が広がる向かい側の石階段から、少年が三人ほど降りてくるのが見えた。
 中学生ぐらいだろうかーー少年たちは、円を作るように立ち並びおもむろに上半身を裸に晒す。
(泳ぐのかな?)
 水遊びには少し早い気もするが、彼らなら目を細められる歳でもない。
 パチン!
 弾けた小気味のいい音のして、照らされた水がしぶいて爆ぜる。
 一人が浅瀬にその身を打ちつけたのを皮切りに、三人は次から次へ、繰り返し川へ飛び込む。
 何度も、何度も。
(あれぐらいのとき、あんなことが楽しかったな)
 時折、決まりの悪い音が混じる――。
(流行ってんのかな? 意味はないんだよなあ)
 はしゃぐ声が遠いようで、近くに聞こえる。
 何度も、何度も。
 順番に、水面へ――。
 何度も。何度も。
 途絶えるコトのない音が――。
 途絶えた。
 いつの間にか、釣竿にやっていた目を戻す。少年の一人が、水面に全身をゆだねたまま動いていない。
 驚きが口を突く。ほとんどを漏れた吐息のオブラートが包んでいた。
 僕が腰を上げて様子をうかがっても、あとの二人は頭上で手を叩きながら、その場で飛び跳ねるようにして笑っている。
 ムクリ、倒れていた少年が起き上がった。
(なんだ、大丈夫なのか……)
 安堵は束の間だった。
 期待を連れた「もしかしたら」は、不安を残して去っていく。
 少年の片腕は、明らかにありえない方向に曲がっていた。
(折れてるんじゃないのか……?)
 トールホワイトのような、鹿の後ろ足のように曲がったそれ。
 少年たちは気にもせず、また水面への飛び込みを繰り返していた。
 なに気なく見ていたものの、あれだけ水面に身を打ちつけていれば、なんらかのケガをしておかしくはない。それも浅瀬だ。大きめの石やなんかもある。
 夏休みも始まっていないはずのこの時期、平日の昼間に制服でもない少年たちが、こんなところにいる不思議も芽生えた。まあ、学校はサボったのかもしれない。
 歯止めの効かない異様な光景に薄気味悪さを覚え始めたころ、僕は三人から目を離せなくなっていた。
 見ているこちらまで痛くなってくる――。
 一人の方腕はブラリぶら下げたままに、それでも起き上がり小法師を繰り返す。強いられた反復作業のようで、示した理解が遠くなる。
 なにかしら声をかけた方がいいのでは? そう考え出して、半開きの口で渇く喉に唾を飲み込んだ。
――あの、さ。
 途端、三人が行為を止めて、いっせいにこちらを見た。
 それからは知らないでいた。声をかけた先の。
 なぜ言葉にしたのかも、届くはずない声量の不思議も。
 少年たちは、全員無機質な無表情だったように思う。
 ふっ、と視線を外し、意を決して再び少年たちへ目を向けた。
 誰もいなかった。
 夕焼けが辺りを包んでいた。
 今の今まで青々としていたハズの空が、辺り一面、橙色にまみれている。
 夕方5時を知らせる音楽が鳴った。カップルも消えていた。

 どうしようもないぐらいに大きな音を立てて高架上の線路を走り抜ける電車を頭上に感じ、僕は茫然と立ち尽くした。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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