釣った釣られた

 そのときは近所の川で釣りもどきをしていた。
 べつに釣れても釣れなくてもいい。
 しばらくして、おそらくはカップルが二人してそばに腰を降ろした。座れる場所はいくらでもあるだろうに……

 高架下、浅瀬が広がる向かい側の石階段から、少年が三人ほど降りてくるのが見えた。
 円陣でも組むようにして立ち並ぶと、おもむろに上半身を裸に晒した。
 水遊びには少し早い気もする。けれど、彼らなら夏をフライングしても仕方ない。

 パチン!

 弾けた小気味のいい音がした。照らされた水がしぶいて爆ぜる。
 一人が浅瀬にその身を打ちつけたのを皮切りに、三人は次から次へ繰り返し川へ飛び込んでいく。

 何度も、何度も。
 時折、決まりの悪い音が混じる――
 はしゃぐ声が遠いようで、近くに聞こえる。
 何度も、何度も。
 順番に、水面へ――
 何度も。何度も。
 途絶えるコトのない音が――

 途絶えた。

 いつの間にか釣竿にやっていた目を戻す。
 少年の一人が動かないでいる。水面に全身をゆだねたままで。
 驚きが口を突いた。
 腰を上げて様子をうかがっても、あとの二人は頭上で手を叩いている。その場で飛び跳ねるようにしてハシャいでいた。
 ムクリ、倒れていた少年が起き上がった。
 安堵は束の間だった。
 少年の片腕は、明らかにありえない方向に曲がっていた。トールホワイトのような。鹿の後ろ足のように曲がったそれ。
 少年たちは気にもせず、また水面への飛び込みを繰り返していた。

 イジメには思えない。クスリでは似つかない。度を超えた思春期パワーが狂気に走らせてコントロールの効かない三人ともが自由意思で参加している風にしか見えない。
 なにかしら声をかけた方がいいのでは? 半開きの口で渇く喉に唾を飲み込んだ。

――あの、さ

 途端、三人が行為を止めて、いっせいにこちらを見た。
 それからは知らないでいた。声をかけた先の。
 なぜ言葉にしたのかも、届くはずのない声量に彼らが反応した不思議も。
 ふっ、と視線を外し、意を決して再び少年たちへ目をくれた。

 誰もいなかった――

 夕焼けが辺りを包んでいた。
 今の今まで青々としていた空が、辺り一面、橙色にまみれている。
 夕方五時を知らせる音楽が鳴った。カップルも消えていた。

 どうしようもないぐらいに大きな音を立てて高架上の線路を走り抜ける電車を頭上に、僕は茫然と立ち尽くした。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
某

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