カウントダウン

 僕の地元には、一方通行のトンネルが多い。
 一応、車道に線引きはあるが、自転車は片側に区画された歩行者用通路を利用する場合がほとんどだ。
 どうしても、横並びで併走したい学生はべつだが……。

 そんなトンネルの一つ、普段あまり使わないものをたまたま利用した。
 少なくも、夜の10時は超えていたように思う。
 薄暗い橙色が包むトンネル以外は真っ暗で、ポツポツとした街頭の白色光を頼りにライトの壊れた原付に跨っていた。
 トンネルに入り少し進んだころ、後方からガヤガヤと声が聞こえる。
 何を言っているのか分からない大きな声が、
「サーン!」
 それと明確に聞こえた。ハテ誰かに「さん」と呼びかけられたか?
「ニィー!」
 ああ、カウントダウンか、と思った。
 黄色い声。中高生ぐらいの女の子の声だった。トンネルの内部空間は、高い声がよく響く。
 僕もなにが楽しかったのかそれぐらいの年齢のとき、トンネルを通る度に大きな声を出していた。
「イーチ!!」
 一体、なにが押し迫っているのか知る由もない。
 が、どうせ大きな声を上げる程度のことだろうと思っていた。大人をからかうのはよくない。
 ――音がした。よくない音だった。
 僕の少し前、歩行者用道路を走っていた自転車のおそらくは男性が、突然、横方向に倒れた。
(え、コケタ?)
 追い抜いてしまったが、一方通行の上に道も狭いのでUターンするわけにもいかない。
「アハハハハハ!!」
 二重に重なった笑い声が、うしろから聞こえる。
 サイドミラーで確認するも、暗くて誰かいるのかよくわからない。
 トンネルを抜けてから、迂回して男性が倒れたままになっていないか確認すべきか迷っていた。
「よく飽きないネ~」
「あ、アレもイッとく?」
 ――おかしい。
 会話がハッキリと聞こえる。
 明瞭なのに、それなのに発信源との距離がどうも掴めない。響いているような、湧き出しているようなひどく曖昧でーー
「サーン……!」
 知らずに、グッ! とハンドルに力を加えてスピードを上げた僕は、一気にトンネルを抜け出た。
「あ~、逃げられたぁ~」
 耳元で、いや脳の奥でハッキリと聞こえた。

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某

ヤレバデキルコモドキ科。口は災いの元が学べない。
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