「シュウマイのお化けが出るからヤダ」
同級生数人と初詣に出かけた道すがら。昔から出る、出ると噂のあったマンションの話になって、シロノが言った。
件のマンションの前を通って行こうと言う話になって、シロノが昔シュウマイのお化けが出ると言ってなかったか? と居合わせた誰かが口を突いたがきっかけだった。
——シュウマイ?
僕自身は初めて耳にする話だったのと、想像に難くて訝しんだ。
「うん。シュウマイ。シュウマイ、シュウマイ……シュウマイや! シュウマーーーイッ!」
ブチ切れる速度が異常。思い返すのも憚られるほど怖いことなのかは知らない。
*
シロノは小学生のころ、件のマンションに家族で住んでいたらしい。
高学年に上がるころには引っ越したらしいが、引っ越しが決まって指折りその日を待った。
お化けが出る——
自分が住んでいるマンションの噂を知ったとき、彼は絶望感に打ちひしがれた。
(やっぱり本当だったんだ)
ある日、学校から帰ってきてふと見上げたマンションに”それ”を見た。
「マンションの廊下でも見んの。見るようなったの」
シロノはシュウマイのお化けを見て以来、ただの見間違えだと思うようにしていた。
それが幽霊が出る噂を知って、ああ自分が見たのは本当に幽霊だったんだ、と思うようになった。
「雨、雨の日。天気怪しい日に出る。それでなくても住んでるときに飛び降りとか首吊りあって気色悪かったからなあのマンション」
シロノはうとまし気にまくし立ててから、
「未だに雨の日それで嫌いなんもある」
と、身を縮こまらせた。
(頭に緑のちょぼんでもあるのかなあ……)
シュウマイのお化けと聞いて頭にグリーンピースを乗っけたメジェド様を思い描いていた。
——いや、待て待てそれじゃ扇の広げ方が逆だ。
「逆や!」
シロノが声を荒げた。
周りにシュウマイのお化けなんてどんなのだと、笑われて出た言葉だった。
「だから、テルテル坊主の逆。逆さまのやつや!」
逆さのテルテル坊主……それじゃ雨が降り続けるといわれる。
「大きさ?! これぐらいやっ! お前ぐらい」
面倒になったのかシロノは段々と説明が雑になってきていた。
信じていない人間に言ってもムダだといわんばかりに、ムクれているような、疎ましがっているようで……
首吊り、逆、飛び降り——
雨、逆、続くように——
「なんだよ?」
目の合ってシロノはいわんばかりに僕を見ていて、意識は空な風の気のした。
年の明けてすぐの夜風は寒すぎて、神社への道のりのは家から漏れる灯りも少ない。
件のマンションの前は通ってみたが、そのときはなにもなかった。