キスはダメ。

Sさんは現在大学3年生。

一昨年、初めての彼女ができた。

付き合ってしばらくして彼女の部屋へ招かれた。それまで幾度となくデートを重ねていたのだが、精々手をつなぐことしかできないようなデートだった。

より深い関係になりたい。

密やかな期待を胸に彼女の部屋を訪れた。

しばらくはテレビを見たりおしゃべりをしたりして過ごしていたのだが、話も尽き、お互いに黙ってしまったタイミングで意を決したSさんが彼女の肩に手をかける。

そしてゆっくり顔を寄せると、「待って」と彼女が右手でSさんの目を覆った。

「恥ずかしい」

そう言って左手でSさんの腕をぎゅっと掴む。

お構いなしに顔を近づけるSさん。

すると、ポン、と後頭部をはたかれた。

「え?」

思わず彼女の右手を下ろして振り返る。

もちろん誰もいない。部屋には二人だけ。

(気のせいか)

Sさんは改めて、彼女の両手を包み込むようにぎゅっと握った。

そして恥ずかしそうに目を伏せる彼女に再び唇を寄せる。

パシン

今度は少し強めに叩かれた。

その瞬間、Sさんははっきりとした拒絶を感じた。

こんなにも軽く簡単にキスをしていいはずがないと、彼はその日諦めた。

一年以上経った今でも「していいタイミング」は訪れていない。

The following two tabs change content below.
ツカサ
本業は公私混同宗他力本願寺の住職。
ツカサ

最新記事 by ツカサ (全て見る)