赤城が一人映画館に出向いたときのこと。
楽しみにしていた大作SF映画を鑑賞しながら、スクリーンの汚れが気になったそうだ。
白くぼうっと光る円状のものだった。
映画も終わり、画面が暗転してエンドロールが流れ出した。
いい映画だった、と余韻に浸る赤城はスクリーンの汚れに目をやった。
汚れではなかった。顔だった。
しろくぼうっと光る、幽霊としか呼べないようなものの顔だった。
カーテンから、目と口だけがある真っ白な顔がのぞいていた。
赤城と目があうと、幽霊は嗤ったという。
× × × × ×
「一作目がすっごく面白かった監督さんで、二作目も楽しみだったの」
アラサー女子である黒岩さんが一人吉祥寺の映画館に行った。
「けれどもう、全然ダメ。私は映画のことよくわかんないけど、あれはダメってのはわかる。エンディングは別にいいのよ、ただテーマがブレブレだし……」
以降映画評を二十分ほど私は聞かされた。『ライムスター宇多丸のシネマハスラー』で聞いたことあるような評論の仕方だなぁと思ったが、黙っておいた。
「本当に本当に退屈で、よくまぁ周りは寝ないで見ていられるなぁって思って」
空席が目立つ館内を見回した。
三つ隣の席に男がいた。
戦争映画の被害者のように、頬から口にかけての肉がミンチ状になっていた。
「ミミズを焼いたような」匂いがしたという。
呆然と眺める黒岩さんに男は「あとで」と言うかのように掌を突き出した。
エンドロールが流れ終わり、場内が明るくなると男はいなくなっていたそうだ。