高宮さんは幼少時、鬼に攫われたことがあるという。
「はい?」
私が笑って聞き返すと、彼女は黙ってシャツをめくり、臍を見せた。
臍には親指が三本入りそうな空洞があった。周りの肉は火傷跡のように引き攣っていた。
「あとここにも」
服を首元までめくりあげた。
黒の下着が見える。
「そこじゃない」
高宮さんは服を掴む手の、空いた指で脇を指した。
隠れていた部分はマグロの赤身のように見えた。皮膚を一枚めくった人体標本のような脇だった。
「鬼に改造されたの。悪い子には罰だって」
「いくつぐらいの話?」
「小学校低学年の頃だと思う。きっと。あんまり覚えてないけど」
「本当の話?」と訊くと「本当の話」と高宮さんは笑って答えた。
であれば、私は何も言えない。
胸元の煙草の形をした火傷跡を思い返すと、今でも苦しい。