新宿駅。
草野が帰路にて小田急線南口を通りかかった時。
離れた位置からでも、隅の柱脇に女物の浴衣を着た人がいるのはわかった。
(花火の帰りかな?)
網笠を深く被り、その人は両手を頭上でふらふらと舞わせていた。
阿波踊りのように見えなくもなかった。
草野はそのままJRの改札へと向かう際、興味本位で顔を確認した。
細身の体と色白の首の上に乗っかっていたのは、魚の頭だった。
「干した魚の、そうだなぁ鯉をミイラみたいに干したら、あんな顔になるんじゃないかなぁ」
鯉頭はその場から動かず、延々と阿波踊りのようなものを続けていたそうだ。
突如動きをとめた。
そして鯉頭は網笠の下から、草野さんをじっと見つめたという。
「ちょうど池に近寄ると、鯉が集まってきて、じっと見てくるでしょ? あんな感じ」
以来、草野さんは地下道よりJR改札に向かうことにしている。