赤ちゃんの泣き声

 休日の夜、上山さんはスーパーの帰りだった。
 住宅街を歩いていると赤ん坊の泣き声が聞こえた。
 まるで熱いものを押し当てられているような泣き声だった。
 ――虐待。
 その二文字が上山さんの脳裏をかすめた。

 しかし違った。
 下手に通報しなくて本当に良かった、そう上山さんは語る。
 赤ん坊の泣き声だと思っていたものは、木の上から聞こえた。
「おじいさんの生首がぶら下がっていたんです」
 嫌らしく嗤っていた。セクハラする男と全く同じ表情だった。
「いやぇぇぇん、いぇぇんん、いやはへぇぇぇぇん」
 生首はボトッ……ボトッ……、と頬の肉をゆっくり地面に落とした。そして上山さんの反応を伺った。
 つい怯えてしまった上山さんを眺め、再び嗤ったのちに生首はすうっと消えたという。
「ああいうのって、本当に不快……。負けたみたいで、ずっと厭な気分になったわ」
 考えれば考えるほど苛立った上山さんは、昼間、ノコを手にその木に赴いた。
 ノコで傷つけた木に「根まで枯らす」という強力な除草剤を染み込ませてやったそうだ。
 木は三週間後に枯れ、以来その道は安全に通ることが出来るという。
「舐めるんじゃないわよ、まったく」
 上山さんはカカッと笑った。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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