高架下で道を塞ぐ女

 高野が高円寺でバイトを終え、自転車で隣駅の阿佐ヶ谷に帰っている時だった。
 高架下の道を一直線に走っていると、中央に女が立ち尽くしていた。
「なんですか?」
 一瞬勤める飲食店のお客さんかと思ったが、高野の店はちょっと女性が入れないようなむさ苦しいオジサン連中しかこない定食屋だった。
 寂しいことに女友達は一人もいない。彼女は三年いない。
 女の身なりは整っており浮浪者の類には思えなかったという。
 つばの広いボーダーのハットをかぶっており顔かたちは見えない。
「――あ――あんた」
「あたしのののののおおおおお――――」
「――――すて、すてない、すてないででででで」
「あ――あ――むおいいです――やぶかないいいい」
 女は立て続けに奇怪な言葉を連呼していた。
 機械音のように高い声だったという。
 高野は台詞と口の動きがかみ合っていないことに気づき、背筋に氷を当てられたような寒気を感じた。
「じゃ、僕これで……」
 颯爽と高野は逃げ出したそうだ。

 翌日出勤のために同じ道を通った時、女がいた場所には古びたフランス人形が置いてあったそうだ。その人形は ボーダーのハットをかぶっていた。昨晩見たものを人形サイズに小さくしたものだった。
「人形の精、とか、そんなのあるワケないですよね」
 そう笑う高野に、私は曖昧に頷いた。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。