五十嵐さんは大学生の頃、大学の近くで一人暮らしをしていた。
無論たまり場になった。
同じ学科の友人、サークルメンバー、はては友達の友達まで……。
が、元来おおざっぱな人間なのでさほど気にはならなかったという。
「それに土産として酒を持ってくる奴もいたんで、助かりました」
凄い時など、一ヶ月に何人が出入りするか五十嵐さん自身も把握できなかったという。
中島らものエッセイにちなみ『ここはヘルハウスや』と自称していたという。
五十嵐さんがしばらくサボっていた風呂掃除をしている時だった。
排水溝に詰まった髪を摘みとっていると、その中に溝の奥まで伸びている白い細い糸が出てきたという。
なんだろう、首をかしげながら引っ張ると糸の先が排水溝の蓋にぶつかった。
蓋を取り、引き上げると拳大の黒い物が飛び出てきた。
針金で縛られた猫の生首だった。
白目を剥いた猫の顎はさっきまで叫んでいたように開いていたという。
毛はまだらに引き抜かれ、耳は両方とも千切とられていた。どぅるん、と舌が伸びて、床に落ちた。
鼻を曲げる匂いに気づくと、五十嵐さんはその場で嘔吐した。
「掃除するのに便利な場所だったからまだ良かったです」
誰がそんな悪質な悪戯をしたか見当もつかないと五十嵐さんは言った。