引っ越す前にアパートへ悪戯

 大屋は就職を機に、それまで住んでいた栃木の実家から都内に引っ越した。
 しかし就職した会社は半年で潰れ、当時付き合っていた彼女には手痛い振られ方をしたそうだ。
 おまけに一年で大きい病気を二度し、計三週間の入院生活まで送るはめになった。
 その一年で小さい病気も含めると医療費はサラリーマン二ヶ月分の給料にものぼったという。
 バイトをしながら就職活動をしていたが、いよいよ先も見えなくなり実家に帰ることにしたそうだ。
「ろくなことがなかったんすよ」
 日当たりの悪いアパートは黴が生えやすく、そのせいで体調も崩しやすいのではないかと大屋は考えたそうだ。
「家賃は安くないくせに、環境も良くないとはどういうことだ! って思っちゃって。だいたい水漏れの対応も遅いし騒音のクレームつけても反応ないし……」
 管理会社の怠慢は目に余った。
 憤った大屋は悪戯をしてやろうと企んだそうだ。
「神社で御札を用意してきました。次の住人が見つけたら絶対ビビるだろうって思って。けど目立つ場所に貼ったら退去時のクリーニングで剥がされちゃうだろうし……」
 引越しの準備をしながら、大屋は部屋を点検した。
 ピンときたそうだ。
「ユニットバスの天井蓋があるじゃないですか。あれを開けて、裏に張ればバレないなって思って」
 今まで一度も開けたことはないので埃まみれだろうと予測した。
 マスクをして手をかけた。
 天井裏にはびっしり赤茶けた御札が貼られてあったそうだ。
 大屋は言葉を無くして見回した。
 一部、爪で引っ掻きながら剥がした跡が残っていた。
 そしてとぐろを巻いた蛇のように、濡れた長い髪が盛られてあったという。

 大屋は残りを引越し屋に頼み、二度とそのアパートに戻らなかったそうだ。 

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。