コックリさんにまつわる怖い話

 徐々におばさんへと変化しつつある友人の手島にも、可憐な美少女時代があった。
『二週間にいっぺんはラブレターをもらった』そんな中学生時代の話だ。

 放課後、誰もいなくなった教室で仲良しの奈美ちゃんと他二人でお喋りをしていたという。
 誰かの噂話も底をつくと、奈美ちゃんがコックリさんをやろうと言い出した。
 興味があった手島さんたちも乗り気であったそうだ。
 聞きたいことは山ほどある。
 将来のこと、好きな人のこと、学校のこと……。
 奈美ちゃんはすでに経験済みであるらしく、段取りは素早くすすんだ。
 白い紙を用意すると、鳥居と数字・五十音を書き、左右に「はい」「いいえ」と大きく書いた。
 十円玉を置き、机を四人で囲む。
 全員の指を十円玉にのせた。
 息を吸うと奈美ちゃんが開始の合図を出す。
「コックリさん、コックリさん、おいでください」
 しばらく硬貨は動かなかった。「忙しいのかな?」奈美ちゃんは呟いた。
 三分ほど待っただろうか、諦めムードが漂い始めた時に指が動いた。
 まず「き」に動き、続けて「た」で止まった。
 手島さんたちは無言のまま、四人で顔を見合わせたという。
 やばくない? そんな声があがった。
 けれど奈美ちゃんは動じなかった。
「コックリさんの名前は何ですか?」
<よねだ>
 と十円玉は示した。
 同級生の一人が、苛立たしげに息を吸いこんだ。
「ねぇ誰か指を動かしてるんならやめてよ。冗談でも怖いよ」
 指は滑り出した。
 四人の指はどれも白くない、つまり力をいれていなかったそうだ。
 まるで磁石で動かすトリックのように十円玉は動いた。
<やめない>
 四人は凍りついた。
「これほんとやばいよ……」
 手島さんは自分が発した言葉が、すでに泣き出しそうな声だとわかったそうだ。
「そうだね、低級なのがひっかっかったみたい。帰すね」
 奈美ちゃんは「ふー」と息をついた。
「コックリさん、コックリさん、どうぞおもどりください」
 指は動かなかった。
 急に下水を煮詰めたような強烈な腐臭がしてきた。
「だめ、臭くて吐きそう」
 換気する為に立ち上がろうとした手島さんを奈美ちゃんはとどめた。
「ダメ! 十円玉から指離したらとり憑かれちゃう!」
「でも」
「いいから手を離しちゃダメ!」
「……うん」
 手島さんも同級生二人もすっかり涙目で、早く逃げ出したかったという。
 奈美ちゃんだけが落ち着いていたそうだ。
 全員ハンカチで鼻をおさえると、再び「お帰りください」とお願いした。
<だめえ>
 数瞬黙った後、手島さんは息を飲んだ。
 他二人も同様に奈美ちゃんの隣を見つめていた。
「……どうしたの、みんな」
 うろたえた奈美ちゃんの隣に、男らしきものがいた。
 顔のいたるところに、赤錆がこびりついてた。眼球があると思わしきところには土が詰まっており、ぼろぼろと溺れ落ちる。下顎に皮膚はなく、骨が露出していた。
 黄ばんだ浴衣から、あちこち食いちぎられた腕を出し、奈美ちゃんの肩に手をかけた。
「え?」
 横を向いた奈美ちゃんは「ぐえっぃ」と一瞬変な声を出したそうだ。その後断末魔のような悲鳴をあげて椅子から倒れ落ちた。
 十円玉に乗せておいた指が引っ張られるかのように激しく動いた。
<ばかおんな>
<ばかおんな>
<ばかおんな>
 何度も同じ言葉を指先は綴った。
 誰かかが合図を出すこともなく、三人はいっせいに駆け出した。

 気づけば大声で泣きながら教務室を叩いていたそうだ。
 様子を見に行った教師が、ぐったりと倒れる奈美ちゃんを保健室に連れていってくれたという。
 翌日から奈美ちゃんは不登校になり、結局会えずじまいのまま手島さんは中学を卒業した。
「お家に会いにいかなかったの?」
「うん。けど会わせてもらえなかった……。うちの親からも何度も会いに行くよう言われたんだけど……」
 玄関先で対応してくれた奈美ちゃんのお母さんの腕に、小さくこびりつく赤錆を見つけてしまい、二度と訪れることができなかったそうだ。

 以下は蛇足である。
 一点、気になることがあった。
 しかし今さら指摘したところで、どうしようもないので、彼女には言わなかった。

 彼女たちは、かえしていない。

The following two tabs change content below.

別府

管理人です。世間一般で言う、いわゆる恥知らずです。

最新記事 by 別府 (全て見る)