この春に田無さんが配属された職場はやけに派遣が多かった。
数少ない社員に、なぜかと飲み会の流れで尋ねると、そっと耳打ちされたという。
「定時過ぎて残ると……視えちゃうらしいんですよ」
なにが、と尋ねると田無さんより年下の社員は両手を前に垂らした。
「なんかですねぇ……背骨が曲がった女の幽霊がいるらしいです。僕や派遣さんは定時なると帰っちゃうから視たことないですけど……」
ゆえに残業が生じるような業務を担当した社員はことごとく異動を申し出るか、休職をするという。
苦笑いを浮かべる田無さんだったが、最後につけ加えられた一言が、どうにも気になったという。
「聞いた話ですとね、家についてくるらしいんですよ。こう……夜中にパチっと目が覚めるときってあるじゃないですか。そのときに、ベッドの脇に座っているんですって。じぃっと……」
ゴールデンウィーク明けから、田無さんの業務は本格的にスタートする。
定時で終わる作業量でないことは長年の経験で察しているという。