ポッドキャストを聴きながらの帰り道。
「最近、ダイエットがてら一駅歩いて帰っているんだよ。残業で夜遅くなった日も……」
いつものルートを歩いていると公園にさしかかる。
通り抜けようとすると自転車が落合さんを追い越していった。
自転車を漕ぐ中年男性は酔っ払っているのか、なにか声を出していた。
歌? 独り言? イヤホン越しにでも聞こえる。
「ポッドキャストの音声の隙間に入ってくるんだよ。女がすすり泣くような高い音音が。え、おっさんが? って思ってイヤホンを外したら……」
無音だった。
自転車に乗っている男性は歌ってなんていなかった。
耳元で、囁かれたという。
<アイツ、シネバイイノニ アイツ、アイツ、シネバイイノ>
弾かれたように 落合さんはその場を逃げ出した。
以来、落合さんはそのルートを歩くことを止めたという。
また後に調べたが、その公園では殺人事件の類いは起きていなかった。
「だから思うに、生き霊かなぁって。おっさんが何をしたのか……まぁ恨まれることだろうけど。ただ思うよ、この歳なって。もし女に恨まれたとしても、果たしておっさんだけが悪いのかなってさ」