未怜さんの家族は六人家族。両親と女四姉妹の三女。家族仲は昔から良いという。
彼女が中学二年のときだった。
ある晩、ラーメン食べに行くぞ、と父親が唐突に言った。
時刻は夜の十時すぎ。
父親の「何ラーメンがいい?」という質問に、誰かから「喜多方ラーメン」と声があがった。
皆異論はなかった。
「よし、じゃあ現地に食べにいこう!」と父親は張り切った。
そして夜十時過ぎに一行は、ラーメンを食べに青森へと向かったという。
ちょっと待って、と私は思わず止めた。まず訊いた。
「喜多方ラーメンは福島でしょ?」
ハテナマークはそれだけではない。
そんな遅い時間に? 東京から青森に? いくらラーメンでもダルくないですかそれ?
私の質問に彼女は首をかしげた。
「そうなのよね。後から考えるとわかるのよ。あの晩はおかしいって」
未怜さんは話を続けた。
「でね、 パパの車で青森まで行ったんだけど結局お店がわからないの。初めての土地だから」
当然だ。
「だから車のナビでラーメン屋さんを検索して、ここでいいかって指定したの。けれど……」
車はいくら走っても目的地にたどり着かない。
それどころかナビの指すまま走ると、山道に入っていった。
人気は全くなく、どんどん暗くなっていった。
「ヤバくない? って話してたら、ママが言うの。『後ろの車がサァ、ずっとついてきている』って。確かに一台の車が先ほどから背後を走っていたの。ドラマで見る探偵の尾行みたいに思えて、とっても嫌な予感がした。追いつかれたらきっと悪いことが起こるって」
娘たちの直談判に父親は脇道にそれてしばらく待った。
後続車を先に行かせてから再び走ると、たどり着いた先は廃墟、それも健康ランドの廃墟だったと未怜さんは言う。
<せっかくだから車を降りて、廃墟を見てみよう>
そう言いだした両親を未怜さんら姉妹は慌てて止めたという。
絶対に良くないことが起こる、と半ば確信していた。
結局食事は中心地に戻る際に見かけた中華屋で済ませ、東京へと帰路についた。既に明け方だった。
「そう、東京への高速道路に乗ったあたりで我にかえったの。『なんでラーメン食べに青森行ったんだろうって』。別にどうしてもラーメン食べたかったわけじゃないのに。布団に早く入りたかったし」
後部座席でウトウトとしはじめたとき、窓から標識が目に入った。
東京行きの標識の上に、二匹の鬼が笑っていたの。
廃墟は後に調べると、青森で有名な心霊スポットだった。
今振り返っても全てが意味わからない、と未怜さんは言う。