パァーン――鼓膜を殴りつけるような音に宮野は我に返ったそうだ。
見回すと、自分が赤信号の青梅街道のド真ん中にいることを知った。
訳がわからなかった。
四車線の大道路。
宮野が立つ車線の車は、なんとか急ブレーキをかけてくれた。
運転手は窓から身を乗り出し、なにごとか怒鳴っていた。
隣の車線を猛スピードで走る抜ける車の風が頬を叩いた。
あのスピードの物体がぶつかれば骨もろとも木っ端微塵よ、そう後に宮野は語る。
クラクションを鳴らされながら、宮野は平謝りしつつ青信号になるまで待ったそうだ。
「もし、慌てて渡ろうとしたら、きっと他の車から見えなくて轢かれると思ったから」
どうして無意識に渡ろうとしたのだろう、呆然としながら道路を渡った。
道路の対岸に辿り着くと、舌打ちが耳を衝いた。周囲には誰もいなかった。
後日知ったことだが、宮野が青梅街道で佇んだその時間、重い病気を患っていた親友のA子ちゃんが息を引き取ったという。
話を聞いた私はこう言った。
「それはA子ちゃんが轢かれるところを助けてくれたんじゃない?」
宮野は「あんたは経験してないから」と首を振る。
そして振り絞るように「それに」と呟いた。
「あんた、人間のこと舐めすぎじゃない?」