斎場の霊

 葬儀社に勤めていた薫さんは不思議な体験をされている。

 彼女自身は忙しさから仕事を退職したが、
 ――あそこ祭壇の花と花の間から、毎回顔が覗くから怖い。
 と言い残して辞めていった後輩がいる。

 後輩は神奈川のとある葬儀場に行くことを非常に嫌がっていた。
「たぶん斎場の霊」
 私は首を捻った。
 毎日お坊さんが読経する場である。素人考えでは霊が憑く場とは思えない。
 そう言うと薫さんは身体を揺らして否定した。
「台所だって、掃除しないと汚くなっていく一方でしょ。同じように斎場自体もお祓いしないといけないのよ、本当は。けれどそれやるとコストがかかるから、わざわざお祓いしないところも多いの」

 様々な事情で通夜を自宅ではなく葬儀場で行うケースもある。
 そうなるとスタッフ達も従業員室に詰め、夜を過ごさねばならない。
 件の葬儀場では決まって深夜、2Fの式場から無言の内線が鳴るという。
 何度行っても誰もいない。
「だからあたしもあそこの斎場は嫌いだったな。面倒なんだもの。
 なんだかナースコールの怪談と似ていますねというと、薫さんは子供のようにあどけなく笑った。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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