賃貸高層マンション

 奮発して借りた家賃十万円超えの高層マンション。○○駅から徒歩3分。新宿にだって歩いていける。1Kだけど13階。眺めは抜群。
 だがカリカリと窓を掻く音が聞こえる。
 引っ越し直後から鳴りやまない。
 音は徐々に大きくなっていく。
 カーテンを開けても誰もいない。
 一週間の我慢の後、七條さんはギブアップした。
 もとより心霊系の話は大の苦手である。
 霊感が強いと噂されていた会社の同僚に「部屋まで見にきてくれないか」とお願いした。
 同僚は物凄く嫌がっていたという。
「お祓いなんてできないわよ。さっさと引っ越した方がいいって絶対。○○でしょ? あのあたりって手のつけられない霊ばっかよ。ほら×▼の影響で……」
 しかし七條さんは諦めるわけにはいかなかった。引っ越し代で五十万円以上かかっているのだ。
 何もしなくていい、ただ見てくれるだけでいい。
 頭を下げる七條さんに同僚は渋々頷いた。
 
 仕事終わりに連れて帰ると、同僚は首を傾げた。
「ほんとに音、する?」
「するわよ。こんなつまんない冗談言わないわ」
「変ねぇ。全く悪い気ないわよ」
 とにかく見て欲しい、七條さんは窓辺に案内した。
 同僚は目を細めた。
「ねぇ」
 七條さんは身構えた。窓辺に夜な夜な訪れる者は一体何者なんだろう。嫌な予感しかしなかった。
「あんたんちって猫飼ってた?」
「うん。高校生のとき死んじゃったけど……」
「外飼い?」
「そうだけど」
「信じなくてもいいけど」
「なに?」
「その子、遊びにきたみたい。けど降りられなくなって……怯えてる」
 七條さんは窓に駆け寄った。
「はぁぁあ?」
 同僚の話では、死んだペットの霊が飼い主のもとにやってくることはさほど珍しいことではないという。
 ただ七條さんの飼っていた猫は高層マンションに住んだことはなかった。あまりの高さに戸惑い、怯えていたそうだ。
 たぶん毎晩窓を掻いていたのは、猫なりのSOSだったのだろうと同僚は話した。
「適度に窓開けてあげな。あとは鰹節でもお供えしておけばいいよ」
 言われた通りにしたところ、毎晩の音は綺麗さっぱりなくなったという。
「飼ってた時からおバカ猫って思ってたけど、死んじゃってからもおバカなんだから」
 七條さんは結局三ヶ月だけそこに住み、早々と引っ越したそうだ。
「家賃高かったし、それにあのバカ猫がきた時可哀そうだなぁって思って」
 今のお住まいは三鷹の一階である。広い庭がついているところを選ばれたそうだ。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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コメント

  1. ゆか より:

    この度はリニューアルおめでとうございます。

    以前のサイトにもおじゃましており、少し様子を見ていたのですが…
    別府さんのお話も、某さんの様にすぐ飛べる様名前でカテゴリー分けをして頂けたら…と思います。

    お話の数、そして投稿する方が増えボリュームが増した分すっきりたどり着けない所が気になってしまいました。

    要望が多く申し訳ないのですが…
    このサイトはとっても好きなので、どうかお時間がある時に反映して頂けたらと思います。
    今後の更新も、もう1つのスポットサイトも含め楽しみにしております。