巨頭老人

 歌舞伎町での話だ。
「あずま通りをいってセ×××らへん曲がったとこに駐車場あるでしょ?」
 風俗の案内所に勤める大島に酒を奢ると渋々ながら教えてくれた。
「終電の客も帰って、ひと段落ついたんだよ。上の人が行くはずだった集金頼まれて、それの戻りだったかな」
 立小便をしようと思い、駐車場の隅に向かうと座り込む女がいた。
 泣いているのか両手で顔を覆っていた。
 付近の店の風俗嬢だと大島は察したという。
 店とのトラブルか、客とのトラブルか。あるいは薬か。
 声をかけてトラブルにでも巻き込まれたら面倒だ。大島は無視することに決め、小便をした。しかし視線は吸い 込まれるように女性へと向かう。
 違和感があった。
 暗がりに目を凝らすと、女のすぐ脇に動く存在がいた。
「なんつうか……バケモノだったね」
 皺だらけのおじいちゃん。
 だが。
「頭が両手広げたくらい。それが皺だらけ。女のじいちゃんには見えないわ。恨んでるのかもわかんない。いや恨んでると違うな、なんつうの、似た表情は見たことあるよ。自分の面だ。ボッタクリに連れていかれるリーマンを見つけた時、顔をボッコボコに腫らしたキャバの黒服見た時。あぁこれから不幸な目に遭うんだろうなぁってちょっと楽しくなってる時の面。いやらしく嗤ってたんだ」
 老人の巨頭からは左右五本ずつ指が生えていた。
 指は女に愛撫をくわえるかのように細かく蠕動していたという。
 大島は呆然としながら、立小便を終えた後もしばらく眺めていた。そして逃げるように去った。
「『あ、こっち見てる』ってわかって。顔のサイズとあわない目の小ささだから気づかなかったんだわ」

 大島は以後も、二度ほど巨頭の老人を見かけたという。いずれも不幸そうな女の隣でいやらしく嗤っていたとのことだ。
「よく言うだろ? 歌舞伎は魑魅魍魎あふれるとこって」
 油断できねんだよ、ほんと。大島は二杯目を一気に呷った。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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