ナベやん。その2。

 私の友人でナベやんという男がいる。
 彼は自分では認めないが、はたから見ていると、どうにも心霊の類に好かれる性質のようだ。
 怖い実体験の話題は事欠かない。

 彼が大学生の頃だ。
 一人暮らしのアパート、ロフトで寝ていると携帯が鳴った。
 見たことのない電話番号だった。
 ナベやんは寝ぼけながら通話ボタンを押した。
 ガラスをひっかくような高音だった。
「ひぃぃぃぃ。もも、もしもしぃ。もーしもーしぃ」
 映画やアニメに出てくる機械が話す音、それをさらにキーを高くした声だったという。
 ナベやんは一瞬で「あ、これアカンやつや」と思ったそうだ。
 携帯電話を耳から離しても、キーンと耳障りな音は続いていた。この世のものとは思えなかったという。ナベやんはそのまま電話を切った。
 時計を見ると、深夜三時ピッタリの着信だった。

 翌日も電話は深夜三時にかかってきた。ナベやんは出なかった。
 さらに翌日も電話がかかってきた。
 ナベやんは就寝時、携帯の電源を切るようにしたという。
「不思議に思わないのソレ? 俺なら誰かつきとめようとするけど」
「かけなおしてもロクなことにならんもん」
 不気味な電話がかかってきて一週間後の深夜、ナベやんは唐突に目が覚めた。
 虫の知らせだったのかもしれない。
 瞼を開けた瞬間、音をたててロフトの天窓が降ってきた。七十センチ四方はある枠と、はめられたガラスが頭上に落ちてきた。
 間一髪でナベやんは頭を動かしたが、枠の角が痛烈に頬を直撃した。あと数センチずれていれば目の奥まで突き刺さる恐れはあったそうだ。
 結局あの電話はなんだったのか今でもわからないとナベやんは言う。
「それ以来は?」
「十年はなかったんやけど……」
 つい三日前から、非通知で深夜に電話がかかってくるそうだ。
「勘弁してやって感じやな」
 さほど困った様子も見受けられない、飄々とした態度でナベやんはため息をついた。

The following two tabs change content below.

別府

管理人です。世間一般で言う、いわゆる恥知らずです。

最新記事 by 別府 (全て見る)