私の友人でナベやんという男がいる。
彼は自分では認めないが、はたから見ていると、どうにも心霊の類に好かれる性質のようだ。
怖い実体験の話題は事欠かない。
以前、彼が根津の方に住んでいた頃の話だ。
ナベやんはその日上野で飲んだ帰りに、友人と連れ立ってアパートへと帰路を歩んでいた。
取るに足らない話をしていたという。女の話、ギャンブルの話。
手持ちが少ないせいもあってアルコールはさほど飲んでいない。レモンサワー2杯程度だったという。
「おい、おい、どこ行く」
友人が肩を揺さぶった。
「なにが?」
「帰るんだろ? お前の家に?」
「おぉ」
「なら……なんでこの道通る?」
気づけば友人の顔は今にも泣き出しそうだった。
ぼんやりとナベやんは顔を上げた。
朱色の鳥居がどこまでも続いていた。
後ろを振り向くと、今までくぐったであろう鳥居がずらりと並んでいた。
進む方向は自宅のアパートとは別方向の場所だった。
街灯が照らさない場所で、いやに朱色は目立ったという。なぜ今までこんな場所を選んで歩いていたかナベやんには理解できなかった。
「なにかに導かれてたんじゃないの? そのまま歩いていったら、戻って来れない予感がするんだけど」
私の質問に「んなことないやろ」とナベやんは笑った。四国の人間らしく、ほがらかな笑い方だった。