白猫は見られてた

 大学時代の友人に久方ぶりに会った。彼は学生の時分より薬物の摂取しておりだいぶ性根が怪しい。今もやってるのかと質すと「やってないよ〜」と答えるがどうにも疑わしい。葉っぱ? と尋ねると笑っていた。嘲笑っていた。
 ましてや話は又聞きである。
 怪談ではよくある「友達の友達が経験した話」である。
 ゆえに私は話半分で聞いた。

 増田さんが家の近所の公園で体験した、猫の話であるそうだ。
 仕事で嫌なことがあり、彼が公園で缶チューハイ片手にぼんやり項垂れているときだった。
 枯れかけたクヌギの葉擦れの音にまぎれ、どうにも話し声のようなものが聞こえる。
 増田さんは焦った。
 人に見せたい姿ではない。学生の群れだったら大変だ、と増田さんは思った。非社会人に嘲笑われる姿ほどみじめなものはない。
 増田さんはできるだけ気配を消そうと努めた。
 声はやや高いところから聞こえてきた。
 弾かれたように見上げると塀の上に三匹の猫がいた。
 クヌギの枝に姿が隠れ不鮮明だったが、大きい猫二匹と白猫一匹を、電灯の灯りが照らしていた。
 白猫の動く口と、聞こえる声のタイミングからいって、人の言葉で会話していると増田さんは感知した。幻聴だと思えるほど酔っていなかったという。のちに増田さんはこの体験を友人や知人らに話して聞かせたが、ほとんどの人は信じようとはしなかった。
 白猫は、大きい猫に話しているようだった。
「キキはどこなのだ」
「いないのだ。とうにいないのだ。他のオスと消えたのだ」申し訳なさそうな声だった。
「どちらに」
「西か、ひがし」
 もう一つの声、つまりもう一匹の猫と思われる声がした。
「しかたないのだ。事情、それぞれ、あるのだ。好きでも、離れる、あるのだ」
「いや、キキは好きのフリをしていただけなのだ」
「悲しいのだ」
「走ってくるのだ」と白猫は塀の上を駆けていったという。
 大きめ猫の、どちらかが言った。悲しいのだ。
 
 最後まで聞き終えた増田さんは立ち上がり 「お前らさぁ、今話していた?」と話しかけた。
「にゃ」
「にゃ」
 残された二匹はどこかに走り去ったという。

 以上の話を、私自身も「まさか」という気持ちはあるものの、できれば信じたい。
 白猫に幸あれ。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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