千葉の公園

 阿南さんがまだ学生だった頃の話だ。
 昼間大学から自宅への帰宅途中、公園の草木のもとにしゃがんでいる中年男性を見かけた。
 目を凝らすと、おじさんはしきりに一枚一枚の葉を裏返していた。
 そのしっかりした風体と一心不乱に調べる様子から植物学者のように思えたという。
 好奇心にかられ、阿南さんは近づいていったという。
 おじさんは書類をめくるように唾をつけて葉をめくっていた。
(汚くないのかな)
 そう思ったが、その仕草もいかにも学者に見えたという。
 気づけばすぐ背後まで阿南さんは迫っていた。
 そして自分の予想が違っていたことを知った。
 唾をつけて葉をめくっていたのではなかったという。
 おじさんは葉の裏にくっついているナメクジを口に運んでいたのだ。
 一匹一匹を指で摘み、口内に突っ込んでいた。グミのようにやわらかく咀嚼する音が阿南さんの耳に入った。
 カタツムリが現れるとおじさんは「お、当たり」と呟き、スーツのポケットに入れた。
 すでに何匹か「当たり」を引いたらしく、ポケットからはじわりと粘液か滲み出していたという。
 阿南さんは音をたてないように逃げた。
 その公園には二度と近づかない。千葉の公園だったそうだ。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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