効くんだ!

 街灯の少ない道だった。
 広瀬さんが深夜腹を空かせてコンビニに行った帰り道。
 場所は新潟県のなかでもとびきり田舎なところ。人通りどころか住宅も遠い。 
 
 一瞬視界が真っ白になった。
 それが光だと気づくまで広瀬さんは混乱し、コンビニ袋を振り回したという。
 なんだ、なんの明かりだ、と考えると答えは目の前にあった。

 顔が蛇型に尖った、人のようなものが立っていた。
 身長は同程度。色も一緒。
 形はひととおり近かったが、人とは思えなかった。
 だが他に該当する存在も思いつかなかった。ただただひたすらに「ビビった」という。
 そのナニカは話しかけてくるわけでもなく、また去るわけでもなく、手を軽く伸ばしていた。後から考えれば握手を求めているように思えたと広瀬さんは言う。
 ――本能的に目の前の存在と接触してはいけないと感じたという。
 広瀬さんの身体は動かなかった。
 逃げたいという衝動と、追いかけられるかもしれないという恐怖と、金縛りにあったかのように動かない両足。
 広瀬さんは反射的に唱えたという。
 祖父から昔に聞かされた、祓い言葉。
「ひふみよ いむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑにさりへて のます あせえほれけ」
 数度唱えると、身体は動くようになり、大きな声も出せるようになった。
 広瀬さんが逃げようとする前に、目の前のナニカは瞬きの間に消えていったという。

「いややっぱさ、爺ちゃんすげぇなって思ったよ、もう死んじまったけどさ。あの人すげーよ。あの人の教えてくれた呪文で、よくわかんねーもん追い払ったんだもん」
 あなたが見たの、なんか宇宙人ぽくない? と私が言うと、広瀬さんは怪訝な表情を浮かべた。
「宇宙人ねぇ……はは。俺そういうのよくわかんないけど。ともかくうちの爺ちゃん凄かったんだわ。盆の墓参りは、すげぇ褒めちぎるつもり」

 そうですか、と答えたが、久々にモヤモヤした。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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