色情霊

 多枝子さんは胸の形がよくわかる、Vネックのストライプ柄シャツを着こなしていた。化粧の匂いが鼻の悪い私にも届いた。
 メニューを眺めている時、ベージュのブラジャーがちらりと覗いた。
「金縛りがずいぶん多いの」
 霊感はないが多枝子さんは再三にわたって金縛りにあうという。
 ふいに目が醒めると身体が固まっている。
 何かが視えることはない。
 あるのは触れられる感覚だけという。
「真っ暗な部屋で起きると、もう身体はガチガチに固まってて。さわさわ触ってきたかと思うと、足をガッと掴むの。イメージできるかわからないけれど……脚の中身だけを持ち上げられて、落とされる感じ」
 この現象が今まで幾度も起きているという。
「まぁそれだけならね、脚がつりやすいとか、下痢がしやすいとか、そういった類の人体の癖みたいな感じで受け取れたんだけど」
 先日金縛りの中で目を覚ますと、触られる感覚は脚にいかず、胸元に伸びてきたという。
 多枝子さんは驚き身をよじって逃げようとした。
 だが金縛りは解けない。
 いつも以上に金縛りの強烈さを意識した。
 拘束されているも同然だった。
「最初はただ触れられる感覚だけだったけど……次第に、その揉まれる感じになっていって……。ゆっくり揉まれたかと思うと、ぐいぐいと食い込んでくる指の感覚があって……」
 乳首をつままれ、多枝子さんは声をあげたという。
「それが……自分でも恥ずかしくなるくらい切ない声で。自分で左右の乳首が硬く尖っているのがわかるの。身体を動かしたくなってもどうにもならなくて。本当にあれは参ったわ」
 多枝子さんが話している間、私は彼女を見ないようにしていた。
 居心地の悪さを心から感じていた。
「ずうっと胸を揉みしだかれて、刺激を与えられて……。それでもハァハァって息吐くしかできなくて。切なかったぁ。……あんな姿、娘に見られなくて本当に良かったわ」
 そうですね、と私は相槌を打ってから尋ねた。好奇心から尋ねずにいられなかった。
「最後までされなかったんですか?」
 挿入のことを指した。無論多枝子さんにも意味は伝わっている。
「その先は……」
 多枝子さんは黙った。そして濁した。質問を繰り返すことはしなかった。
「けどね」
 多枝子さんは恥かしそうに身をよじりながら言った。
「起きたらね……、濡れてなかったの」
 ああいうの色情霊って言うらしいね。
 ――また起きたらすごく困る、と多枝子さんは言う。

  多枝子さんは先月、御年六十三歳になられたばかり。
 まだまだ現役である。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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