クリスマス 三題

 白山さんは毎年クリスマスが近づくと、右手の薬指に切り傷ができるといいます。
 そうなるのは四年前、不倫相手と別れてからだそうです。
 奥様は何も聞いてきませんが、娘さんが「なぜ」「なぜ」と聞いてくることに、白山さんは毎年返答につまるというのです。
「三年も前にアイツ(不倫相手)死んだっていうのになぁ。不思議だよ」

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 昭和十九年、十二月二十四日。真昼のことでした。
 当時十一歳だった光永さんが畑仕事に汗をかいている時、天上から叫び声が聞こえました。
 顔を上げると、大空に巨大な蛇が三匹ゆらゆらとうねり西の方角に向かっている真っ最中だったといいます。
 その日の夜。光永さんの街には空襲がやってきました。

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 平成になりたての頃の、十二月二十五日。
 高田さんは地元である群馬は伊勢崎の池がある公園を歩いていました。
 もう今では馬鹿馬鹿しく思えると高田さんは言うのですが、その時彼女はひどく孤独で、将来のことを考えると不愉快になるのでつとめて考えないようにしておりました。
 その公園は一人で歩いていましたが、もとより人気の少ない公園ですので、遠目からでも目立つ人物がいればすぐに気がつきました。
 近づくと、頭の上に白い灰をかぶった、あかぎれた掌をしきりに擦り合わせる少女が座っているのです。
 驚く高田さんに、彼女は俯いて、
「ごめんねって、言いに」
 悲しそうにそう言うと、そのまま姿を消してしまったのです。
 甘い石鹸のような匂いがしたと、今も高田さんは覚えています。
「なんだろう今の。馬鹿みたい」
 高田さんは笑ってすまそうとすると、胸が苦しくなり、涙が止まらなくなったといいます。
 少女の顔は半年前に亡くなったお婆さんの顔と似かよっていたのです。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。