古木さんは帰宅途中、煙草の自販機に硬貨を入れた。
かしゃ、と軽い音がして釣銭の返却口に落ちた。
よく見ると釣銭用のレバーがガムテープで下に固定されてあったという。
(これじゃ買えないわな)
嫌煙家の悪戯だろうか? 古木さんがそんなことを考えながら返却口に手を差し込むとくすぐったい何かが触れ、次いで刺されたような痛みが走ったという。
指を押さえながら古木さんは覗いた。
真っ黒なムカデが返却口に詰められていた。
赤い頭から触覚を生やし、無数の黄色い脚が蠢いていた。
再び閉じられた返却口から脱出しようともがくムカデは、体液に濡れヌラヌラ光っていたという。指に触れた感触を思い返した古木さんは全身に立つ鳥肌が止められなかった。
病院で薬をもらった後、古木さんは警察に行った。
若い警察官は「最近よくある悪戯なんですよねぇ」と首を振ったという。
その出来事から古木さんはコンビニでしか煙草は買わないようにしている。