佐木さんは三十代後半の大手金融営業マン。同年代の平均額をゆうに超える年収ゆえ一ヶ月に一度は沖縄を訪れる、と仰る。
「ダイビングが好きでね。沖縄の知り合いも増えてきて」
その日はマリンレジャーを堪能し、知人宅にて遅い夕飯をご馳走になった。
佐木さんが宿泊するホテルは美ら海水族館近く、知人宅より三十キロほど離れている。
レンタカーに乗ると海沿いの高速道路を走った。
二十分ほどした頃だろうか。
遠くの水平線に、連なる明かりが見えた。
まるで暮夜に電車が走る遠景のように、等距離をとる光は佐木さんと並走しながらゆっくりと進んでいる。
途中まで目で追っていたが、高速道路の出口を越えると林にまぎれ見えなくなったという。
「綺麗だったんだよなぁ」
ただただ不思議だった。
ホテルにつくと、身体が軽いことに気がついた。日頃の疲れも慢性的な肩凝りも残っていなかった。身体を蝕むあらゆる病が飛んでいったかのように、足から指先まで万能感に溢れていたという。
「あの光景見たからかな? ってすんなり納得したよ。そんなおかしな話はないって頭では判断してるのに」
あ、オカルトにはまる人の気持ちわかるかもしれない。そんな感想を抱いた。
翌日、年上の知り合いに話すと、
「それは沖縄の龍だ」
と説明されたそうだ。
沖縄では、近年でも稀に龍の目撃譚があるという。
「もう一度見たい。今度はじっくりと見たい。できればもっと目の前で――。だから実は仕事も辞めて、沖縄に定住しようと考えているんだ。遅くとも来年までには」