黒田さんは心身のバランスが著しく崩れた時、近所の小さい墓地から卒塔婆を抜いて持ってくる癖があったそうだ。
えいやっと膝をつかって真っ二つに折る。そして燃えるゴミに出す。
「リストカットよりはマシな趣味だと思わない?」
私は「んんん……」と首を九十度、左に曲げる。
昨年、黒田さんはいつものように卒塔婆を折った時、膝も『くの字』に曲がったという。
あれだけ足のつま先が顔に近づいたことはないそうだ。
痛みは叫びも出せないほど強烈で、一瞬で世界が真っ暗闇になった。
五時間後に目が覚めた時、再び痛みで失神したそうだ。
変形した骨は結局元に戻らなかった。
びっこをひきながら「しょうがないわ。リストカットだったら、跡が残ってたもん。それよりはマシでしょう?」と黒田さんは仰った。