北野さん

 北野さんは、不審な出来事はいくつかあったものの、幸いなことに去年一昨年も大きな怪我なく過ごすことができた。

 大晦日。
 家族との宴で酔った北野さんは年越しの瞬間を待たずして床に入った。
 深夜未明、電話が鳴る。
「はい……。もしもぉし」
 意識がはっきりとしないまま通話ボタンを押した。
「何してるの?」
「うぅん、ん……寝てたぁ」
「なんだか久しぶりだね」
「んーそうだっけ……」
 相手は友人のだれかだと思ったが、細かいことに頭がまわらない。脳は睡眠を求めている。まだ寝ていたい。無意識が唇を動かす。
「元気だった?」
「うん。ここのところ寒いね」
「ねー。うちのお母さんも風邪ひいちゃったよのよ……」
「あぁ、みたいだね」
 そんな他愛ない話をしているうちに、北野さんはスマートフォンを握りながら寝入ったという。

 目が覚めると北野さんは二度叫んだ。
 昨夜寝ぼけながら話した相手は、過去に北野さんへ偏執的なストーキングを一年間行った元交際相手だった。
 ――どうしてうかつにも電話に出てしまったのだろう。
 いや、しかし番号は着信拒否に設定してあったはずだ。
 二度目は自分の握っていたものの異常さに気付いたときだ。
「おかしいんです、こんなことって起こり得るんですか?」
 手にしていたものは、目覚まし代わりに使っていた昔のスマートフォンだった。シムカードは新機体に移し替えている。
普段使用しているスマートフォンは、手の届かない部屋の隅で充電機に刺さったままだ。
 どう考えても、かかるハズがない。 しかし確かに話した感触はあった。
 一通の年賀状が夢でなかったという証拠だ。
 判が押されていない年賀状には、『久しぶりに話せて良かったよ』と書いてあったという。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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